安くなったもんだ

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■廉価版DVD
今更という話ではあるけど、アニメのDVDの価格設定が面白い。旧作の廉価版DVDが大量に出始めて、コアなヲタクでなくても衝動買いできるようになってきている。

去年からのバンダイビジュアルのEMOTION the Bestというシリーズの登場がきっかけの一つのようだけど、ジェネオンのRONDO ROBE SELECTIONも、11月末までの期間限定の廉価版という形で販売していて、廉価版がちょっとしたブームになっている。こういう場合の期間限定という言葉の使い方は、購買意欲をくすぐる(笑)

以前、DVDのセル市場の価格設定について触れた、
http://maruko.to/2009/01/post-5.html
上記の第7項にも書いたけど、この市場には、ヘビーユーザー層(年間購入金額3万円以上)と、それ以外のライトユーザーというか、いわゆる一般消費者層が存在し、売上げの大半は少数のヘビーユーザーによって成立している。

ところが廉価版DVDは、売上げに寄与してこなかった一般消費者層を開拓しようとするもので、画質にこだわるヘビーユーザー層は高額でもブルーレイを買うという棲み分けが成立した時代ならではの、ダブルスタンダード戦略だろう。ちょっと、昔を思い出しながら、廉価版の背景を想像してみる。


■昔のOVA
そもそも、OVAが登場した1980年代、ヘビーユーザーというか、まだ規模の小さなヲタク第一世代を対象に市場が形成されたため、価格は高いのが当たり前で、ビデオ作品を買うことへのハードルは、今とは比べ物にならない程高かった。まだ、大きなお友達が今ほど多くなく、大人がアニメを見るのもはばかられる時代に、平気で1万円以上の価格設定がされていたという状況の特殊性は、当時を知らないと理解し難い。最近だって、アニメはブルーレイが高い高いと言われているわけだが、約25年前はもっと高かったのに、ファンはそれが仕方ないと理解していた。日陰者の嗜好品というと語弊があるが、TV化が無理な作品をマイナー市場向けに製作するのだから、高いのが当たり前で、しかも買うというより、良作の作品作りにダイレクトに出資しているような感覚に近かったかもしれない。買い支える感覚だ。

丁度、当時のOVAの値段について、面白いツイートがある。
http://togetter.com/li/18577

皆でお金を出し合って買って観たなんてツイートもあるけれど、個人でいくつも買えるシロモノではなく、買ったら皆で貸し合うことに、著作権侵害だなんて誰も言わない時代だ。

当時、お金のないアニメファンがOVAを見る手段の第一は、アニメ専門誌(アニメージュアニメディア、ジ・アニメ、遅れて登場したニュータイプ、OVAのためのアニメV、他にも、アニメックファンロード月間アウトとか)のイベント告知のページで試写会情報をゲットし、せっせとハガキで応募することだった。(主要都市でしか開催されないので、地方在住のアニメファンは、さぞかし苦労しただろう。)

試写会会場では、普通の映画の試写会と異なり、アニメ本編の試写の前に、主題歌のライブコンサートなんてものも定番だった。というのも、会場ロビーではOVAの予約受付や、サントラのレコード販売が行われており、試写会と言いながらも即売場を兼ねていたからだ。

声優や監督の裏話やコンサートの合間に、必ず物品販売の告知が入り、「本日この会場でビデオの予約をされた方には、サイン入りポスターを差し上げます!」とか、「予約者は、イベント最後に、セル画や関係者のサイン色紙が当たる大抽選会に参加できます!最後に声優さんと握手も!」とか、「本日、まだ予約が少なくて、是非皆さんのご協力が必要です。続編につなげるためにも、是非!」みたいな、泣き落としもあった。

あ、当日既に販売会社の解散が決まっていて、この作品で最後ですから買ってください、なんて試写会も思い出したw

まあとにかく、未成年が大量に含まれる会場で、コンサートやイベントで昂揚させて判断能力を低下させ、その場でグッズ購入やOVAの予約をしなければ損だという印象を植えつけ、高額商品を売りつけ...というと、一歩間違えばマルチ商法の勧誘のようだが、別に悪質なわけではなく、レコードやビデオは、値引き無しの定価販売が当たり前の時代でもあって、特典がもらえるならと、こぞって予約の列ができていた。

それを羨ましく眺めつつ、OVAを買う金がないので、仕方なくサントラのレコードを買っていたのを思い出すが、LPレコードは大きいので、ジャケットの大きな絵をゲットできてちょっとお得に感じていたような気もするし、レコードでも、買えば当日の抽選会に参加できたり、関係者と握手できたり...って、やはり冷静な判断力を失っていたかな(自爆)

で、レンタルビデオを待つのが、第二の手段だ。いつからOVAがレンタルされるようになったのか定かでないが、OVAが置いてあるレンタル屋を見つけるのに、店を転々としたファンも多かろう。で、借りたら当たり前に、VHSのデッキを2台つないでアナログ劣化コピーして、よく分からない満足を得ていた。コピーガードなんて施されていない時代のお話(苦笑)


■価格破壊と市場拡大
今の感覚だと高いと感じるかもしれないが、一話4800円という価格破壊をもたらしたパトレイバーが、自分が初めてシリーズもので買い揃えられた作品だった(後に、演出してた澤井さんと職場が一緒になった時は、実はかなりブッたまげた)。その後、ウィークリービデオ(隔週で二話づつビデオを送ってくる)と称して一話2500円計算で全26話を予約者のみに限定販売した銀河英雄伝説、それらにつられて安く価格設定されたレア・ガルフォースなども、頑張って買ったw

今のアニメからは想像がつかないだろうが、パトレイバーも銀河英雄伝説も、途中のアイキャッチで、TVのようにCMが入っていた。ビデオ販売作品なのに、企業CM入れてコスト削減し、更には、いつかTVで放映できる日に備えていたのだ。

こうして、低価格化(当時として)、一般向けに市場拡大を目指す流れができた結果、予算をかけて自由に創った作品を少数者に売る市場としての、OVA本来の存在意義が、変化を始めた。マンガ連載との相乗効果を狙う、メディアミックス路線の作品が増えたのもこの頃からだろう。

OVA+マンガから始まったパトレイバーが、劇場版、TV放映へとつながっていく様は、サクセスストーリーそのものだったのではないだろうか。シリーズを買い支えたファンは、作品の成功そのものに歓喜したと言っても、言い過ぎではない。


■メジャー化の代償
パトレイバーを中高生で体験したヲタク第二世代は、第二次ベビーブーム世代でもあり、角川のメディアミックス路線や、攻殻機動隊、エヴァも体験しつつ、1990年代後半には大きなお友達へと成長し、高額作品でも買い支えられるようになった。すると、価格を気にせずクオリティにこだわるようになる。

しかし、深夜アニメの登場や、エヴァが社会現象となっていくにつれ、ビジネスとしてのヲタク市場の拡大は、ヲタクそのものが一般化していく過程と重なる。拡大した市場における一般化したヲタクは、最早本来のヲタクではないのと同様に、OVAも本来のOVAではなくなった。そこに残ったのは、単なる商品とその消費者、という関係に見えた。

かつては見る機会すら限られていたような作品が、衛生や地上波で放送されるような時代になったが、それをVHSで録画しても、最早満足しない。丁度、VHS+LDでの販売スタイルから、DVDへのメディアチェンジのタイミングで、劣化しないデジタルメディアで作品を保有したいという欲望が、TV放映そのものを作品の宣伝媒体と捉えるビジネスモデルを支えた。もちろん、旧作のVHSからDVDへの買い直し需要も生じた。

ヲタクの支払い意欲額の限界に挑戦するかの販売手法が登場する一方、低価格化で市場拡大を目指す必要性が薄れたのか、ガイナックス商法など、焼畑農業に躊躇がなくなった(苦笑)

それでも、好んで焼かれるファンとの蜜月が続き、市場が成立していた頃は良かった。しかし、理由は様々あろうが、ついにパイが縮小し始めたことで、ほころびが生じてきた。

第二次ベビーブーム世代の大きなお友達も既婚者が増えたろうし、そもそもデフレだし、昔と異なり携帯などの通信費が毎月生じる現在、どの世代も趣味に使える金が減っているのだろう。最近のヲタクにとって、映像作品の購入は必須でなくなり、ヲタク的なサービスやファッションその他、ライフスタイル全般におけるヲタク的消費の一部という位置付けとなり、マイナー市場を買い支えるという認識が希薄化したのだろうとも思う。かつてのOVAのような、稀少価値のある嗜好品ではなくなったのだから、そりゃ支払い意欲額も低下する。しかしそれは、そういうビジネスモデルを選択した結果でもある。ま、ジャパニメーションだのクールジャパンだの自画自賛したことの帰結とも言える。シビアな財布で選択と集中の結果、選択に漏れる作品が出たとしても、最早パトロンでもない消費者に文句は言えない。

そういう意味で、ネットの違法配信の影響云々言うのは、これが80年代の稀少価値がある時代のOVAなら理解できるが、90年代以降の、TV放送を前提としたビジネスモデルからすれば、売上げに悪影響が出る要因とは言えないはずで、何とも間が抜けた言い訳に聞こえる。初めから、放送の録画で満足して完結しない人々に向けて、その先の展開で利益を出す計算なのだから、ネット配信で満足してしまうような人は相手にしていなかったはずだ。

だから、
http://maruko.to/2010/07/post-90.html
こういう話になる。

メジャー化し、稀少価値が薄れた現在、消費者の支払い意欲額を引き上げるために、再度の囲い込みを狙うというのは、何とも後ろ向き過ぎる。囲っては焼き払い、囲っては焼き払いでは、いつしかペンペン草も生えなくなる。

あれ?
なんだか話が違う方向に進みすぎた(苦笑)

まあ、そんなこんなで、囲い込みではない、耕作面積拡大のための廉価版販売というのは、大いに賛成だ。

■廉価版の恩恵
減少しているとはいえ、依然としてヘビーユーザーは大事だ。ブルーレイに特典付けて高額にしても、ヘビーユーザー需要はまだ存在する。しかし、それ以外の一般消費者に対する働きかけの必要性も増している。単に、ブルーレイよりDVDが少し安い程度では、一般消費者にはそれでも高すぎる。双方に両立する有効な売り方は...

ということで、旧作DVDの廉価版販売という戦略が、流行りだしたのではなかろうか。ヘビーユーザーが高額で買う時、同時発売で極端な廉価版を出すわけにはいかないし、特典で差を付けるにも限界がある。そこで、時は金なり。旧作扱いなら、廉価版を出しても文句はなかろう。しかも、今更ヘビーユーザーは、DVDなんぞ欲しがらないから悔しくない。

ブルーレイへの過渡期だからこそ可能な、ヘビーユーザーの気分を害さない形での廉価版での需要創出というバンダイビジュアルの手法が継続し、各社も同様の戦略に出ている今、これは買う側にとってもチャンスだろう。

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1011/11/news025.html
これのせいで今後は、廉価版を物理的なメディアで売るという販売手法自体が消える可能性すらある。そういう意味でも、一応メディアとして保有したい人には、今が本当の最後のチャンスかもしれない。

え?
メディアで保有したいって発想自体が、とっくに少数派?
すみません、元ヘビーユーザーだったもんで、やっぱ形が欲しくて(苦笑)


以下、一応自分向けメモとして、気になるのを貼っておこう。


って、気になりすぎる!!(自爆)


■蛇足
今頃、自分が最後にサポートした仕事が、やっと発売するのを見つけた(笑)

廉価版じゃないのにこの価格なのは、お子様向け作品だからだろう。
まぁ、記念に自分用に買っておくかな。

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このページは、ranpouが2010年11月 8日 23:21に書いたブログ記事です。

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