山田太郎の落選と選挙制度

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■参院選終了
自分は現在無党派で、特定の政党を支持はしていないが、山田太郎氏のダダ漏れ動画を見てから、氏を支持してきた。
http://maruko.to/2010/06/post-86.html

しかし、残念ながら、落選となった。
みんなの党の比例は7議席で、7位の得票は37,191票であったが、山田氏は10位で30,663票であった。出馬を決めた5月末の時点では、比例はもっと議席数が取れるという算段で、3万票で当選できるだろうという話だったのが、首相の辞任で予定が狂ったようだ。みんなの党は、5月末まで四十七士作戦などと銘打って、比例だけで二桁いけると考えていたようなので、山田氏の3万票は、立候補を決意した時点で課された条件はクリアーしたことになる。しかし、計算通りにはいかなかったということだ。

考えてみると、衆院選が比例+小選挙区の重複立候補制であることに比べ、どちらかしか立候補できない参院選は厳しい。
加えて、昨年の衆院選で、比例区の名簿に名前を載せただけで当選できてしまった民主党の磯谷議員のような、棚ボタ当選の可能性もゼロに近い。名簿式比例代表制衆院選と異なり、参院選非拘束名簿式比例代表制は、自力で票を獲得しなければ、同じ党の他の比例候補者に負けてしまう。だから、全国比例の候補者同士は、同じ党内でも競争相手であり、互いに選挙協力もままならないという矛盾が生じる。比例代表制は、政策本位・政党本位の選挙制度のはずなのに、だ。

■その矛盾が顕著に出たのが、みんなの党
みんなの党は、金銭的な支援や、支持団体などがある他党と異なり、各候補者が自力で手探りで選挙活動をしているということが、山田氏のダダ漏れ会議から見て取れる。良い意味でも悪い意味でも、吃驚するくらいアマチュアリズムそのもの。しかし、全国比例に立候補した候補者が、有名人でもないのに自力で全国に名前を売るなんて困難だ。その証拠に、比例における党名・個人名の得票率で、党名得票率が他党と比べ物にならないくらい高い。そして、個人名得票数は、トップ当選者ですら、他党では落選レベルなのだ。

比例の総得票数がほぼ同じだが、組織力のある公明党と比較すると面白い。公明党の比例で、次点で落選した候補者の1/5しか、みんなの党のトップ当選者は得票していない。しかし、比例での獲得議席数は、みんなの党が1議席多いのだ。

また、今回は単なる有名人候補が多数落ちたとも言われているが、あれは単に、不人気な政党から立候補したからに過ぎない。有名人が大量の票を獲得していることに違いはない。例えば、比例で落選した元野球選手の中畑や堀内の得票数は、みんなの党のトップ当選者よりもずっと上だ。江本だって、みんなの党なら余裕で当選できる得票数だが、国民新党だから落ちたのだ。(まあ、みんなの党は、そんなスポーツ選手なんぞ擁立しないからこそ、支持を集めているのだろうが。)

これこそが、比例代表制が、政策本位・政党本位の選挙制度と言われる所以だ。単なる人気者では当選できず、党の政策が支持されれば、知名度が低い候補者でも当選できる。

ところが、非拘束名簿式である結果、党内の比例候補者同士が競争相手となり、組織力が弱いみんなの党の候補者は、連携すら困難だったようだ。それでも山田氏は、経済5レンジャーと題して、経済人候補者の連携による政策提言で相乗効果を狙った。しかし、記者会見を1度開いただけで終わってしまったし、その記者会見ですら、経済5レンジャーのメンバーのうち比例選出の藤巻氏は現れなかった。これがもし、衆院選の比例区のように、同じ党の候補者同士の競争が生じない制度だったら、党として結束するような選挙協力がもっと可能だったろう。

もっとも、党の拘束が緩いこと自体、みんなの党の面白いところではあるし、統率が取れないのに候補者を立て過ぎのだろうと言われても仕方ない。党がどこまで統率するか(というか、当然に統率していると誤解してる人が多いのでは?)だろうが、無党派層メインの政党であるため、振り分けるような票田も、支援組織もほとんど存在せず、「各自の才覚でガンバレ!」というのが実状だったようだ。当たり前だが、仮に自分が比例の候補者で、地元票で足固めしようと考えていれば、同じ党の他の比例候補者が地元に演説に来るのは、とても迷惑だから断るに決まっている(苦笑)

結果、みんなの党の比例は、PHP総合研究所元社長の江口氏を除けば、昨年の衆院選候補者で数年活動していたり、元国会議員、元県知事、元県議会議員、二世...と、既に特定の地域で知名度のある候補者が、その地域の得票によって上位を独占した。これは、みんなの党の大半の支持者の人々には、さぞ不本意な結果のはずだ。「みんなの党」と書けば、きっと山田氏や藤巻氏のような実業家・経済人が当選できると誤解していた、選挙制度に詳しくない人々だ。

どの地域から何票の得票があったか分かっているそうだが、山田氏は、全国的に均等に得票した(正に全国比例の趣旨に合致)結果の3万票だったそうだ。氏が毎晩ニコ生やustでダダ漏れ動画配信をやっていて、視聴者がどこに住んでいるのか質問すると、全国(+在外邦人まで)の地名が画面に次々と流れたのが印象的だったが、それが選挙結果にも反映されたのだろう。つまり、ネットを活用した結果とも言えるのではないか。全国区の比例代表選挙の制度趣旨に合致した選挙活動方法が、ネット利用なのだとも言えるだろう。しかしそれでも、非拘束名簿式の結果、党内の「地盤・看板・鞄」な候補者に及ばなかった。一応、山田氏は製造業に関する政策が中心だったので、大田区を中心に活動していたが、地盤と言えるほどには固められなかったようだ。(大田区の小学生の間では、山田太郎と言えば超有名らしいw)

この選挙制度は、確かに政党本位だが、党内ではタレントや地盤を持つ候補者に有利で、結局は個々人の候補者の政策が軽視される仕組みになっている。個人的な意見としては、参院選の全国区こそ、全国から政策で支持される候補者が当選すべきと思う。将来、公選法が改正され、公示後のネット選挙活動が解禁されたら、政策本位の候補者が当選できるように、多少は変わるだろうか?

まあ、個々の選挙制度設計は、立法府に広い裁量が認められ、過去の裁判でも最高裁は違憲とは言わないできたのだが、衆院選と参院選を比較することで、非拘束名簿式比例代表制の不合理さが明らかとなったと思っている。

良識の府」の参議院が、衆議院よりも、一層人気投票になっているのはおかしい。衆議院は名簿に名前を書くだけでも当選できて、参議院はタレントや特定の地盤を持つ候補者しか当選できないって...制度設計のバランスが逆ではないか。だから、ろくに知らずに、参議院が不要だなんて極論を言う人が出てくる。


■落選ダダ漏れ
さて、落選の翌日の昨晩、多少は失意から立ち直った山田氏が、選挙戦を振り返って、「ラストダダ漏れ」と題してニコ生+ust配信をした。

これまた、後藤弁護士が立候補した時のショックとか、凄く本音をダダ漏れていたw
山田氏が創作物表現規制に反対の立場を明確にしていたのに、規制推進派の後藤氏を、党が比例で擁立してしまい、みんなの党プロパーであるはずの規制反対の支持者が離れてしまった件だ。一時期、「後藤 みんなの党」と検索すると、ネット上にみんなの党批判が溢れていた。
(実際自分も、ガチガチの規制推進派の後藤氏擁立を知って、みんなの党の支持をやめた身なので、あれで失った比例票がさぞかし多かったろうと、想像している。これは、みんなの党がアジェンダの党たる所以で、アジェンダに書かれてない創作物表現規制については、党のスタンスはフリーで、各候補者の自由だったために生じた矛盾であり、同時にこの党の面白いところでもある。しかし、この件に関しては、明らかにマイナス効果が大きかった。13,122票しか獲得できなかった後藤氏のために、党のイメージがどれだけ悪化し、どれだけ票を失ったのか、人選ミスを呪うしかあるまい。後藤氏が落選したのは良いが、当選した中に規制賛成な人物がいるので、みんなの党が今後どうなってしまうのか、心配ではある。)

他、今まで報告を続けてきた、山田氏の総選挙費用の報告もダダ漏れた。なんと、供託金(600万円)を除き、総選挙費用は21,514,543円かかったそうな!
みんなの党からの資金援助はゼロで、献金もゼロの山田氏は、これが全部自腹なのだ(^^;;;;

資金力のある他所の党が、当選の厳しい候補者に何千万円も支援するのと、全然違う選挙戦をしてきたことが、これだけでも明らかだろう。

約2100万円で、獲得したのが約3万票ということは、単純計算で700円/票ということになるが、他の候補者で選挙費用を明らかにしている例を見たことがないので、コストパフォーマンスの比較のしようがない。しかし、ネットよりも人海戦術で当選するような人々が、山田氏の何倍もつぎ込んでいることは、想像に難くない。

そんな山田氏にとって、公選法の改正が先送りにされ、公示後のネット活動が極端に制限されたことの痛手も、上記ダダ漏れのスタッフの発言でも明らかだ。Twitterも使えなくなった結果、公示後、演説会などの告知をする術を失い、途方にくれたそうだ。少数のスタッフで、組織的な支援もなく、ネット無しに聴衆を集めることなど、誰が考えても不可能だ。つまり、現行の公選法は、金と組織を持つ候補者に有利になるように、そもそも作られているということを、思い知らされたようだ。

実は、上記の選挙後のダダ漏れも、完全にセーフかというと、判断の難しいところもある。公選法178条は、選挙期日後のあいさつ行為を制限している。「自筆の信書及び当選又は落選に関する祝辞、見舞等の答礼のためにする信書を除くほか文書図画を頒布し又は掲示すること。」(178条2号)は、禁止行為なのだ。(だから、ダダ漏れの途中で「感謝しちゃいけない」という会話があるw)

落選しても、文書図画を頒布、掲示してネットで御礼してはいけないなんて法律はアホ過ぎだが、ネット選挙解禁のために178条はネットには不適用とすべきだとは、マジメに議論されている。

公選法の限界に挑戦してネットを活用してきた山田氏には、是非とも当選して法改正をして欲しかったが、この点の議論に詳しい民主党の藤末氏が再選したことが、せめてもの救いではある。

山田氏が今後どうするのか分からないが、あの党が変な方向に進まないために、今後も政策に関わって欲しい。

山田太郎s.jpg

とりあえず、お疲れ様です。ノシ

■その他
ということで、みんなの党の獲得議席数は、世間的には大躍進と言われているが、党内では恐らく、当初の予定を大幅に下回ったと考えているはずだ。10議席獲得というのは、参院で1議席で待っていた川田氏にとって、法案提出に絶対必要な最低ラインでしかなかった。

「川田龍平がみんなの党に入った訳(=民主党を蹴った訳)」
http://maruko.to/2009/12/post-75.html

今から読み返すと、川田氏の読みが当たったとは言える。ほぼ同じ頃、参議院で自民党を離党し話題を呼んだ田村氏が、その後民主党に入って今回落選してしまったことを考えると、意味深い。

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このページは、ranpouが2010年7月13日 00:03に書いたブログ記事です。

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