Foresight休刊かよ!

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フォーサイトが、20周年の節目となる来年4月号で、休刊が決まった。
http://www.shinchosha.co.jp/foresight/
編集長が語る今月のフォーサイト
http://www.shinchosha.co.jp/foresight/201001/monthly.html

とてもショックだ。


(1)厳しい出版状況に直面する中で、全社的な事業の再編、特に雑誌部門の見直しが避けられなくなったこと
(2)二十年間の健闘はあったものの、今後の収支改善の見通しが立たないこと
(3)インターネットの普及で、国際政治経済情報を扱う月刊誌の役割が大きく変化したこと

この3点が、休刊理由だそうだ。
http://www.shinchosha.co.jp/info/emergency/foresight.html

かつて、「ウェブ進化論」の梅田望夫が「シリコンバレーからの手紙」を連載していた雑誌であることを思い起こしても、ひとつの時代が終わるかのように、感慨深い。進化に追いつけなかったわけだ。

我が家では、母親が創刊号からの読者だった。
その影響で、自分も読者になった。

社会人になってから、他に定期購読していた雑誌といえば、「エイビーロード」しかなかった(オイ!)自分にとって、フォーサイトによってもたらされる情報は、常に貴重だった。

一人暮らしを始めてからは、たまに実家に帰った時に目を通す感じだったが、今年は公式の読者ブロガーとなり、毎月献本してもらって、記事をブログで取り上げてきた。しかし、結局読者増加には貢献できなかったわけだ。


どうやら、現在の読者数は約2万2千人程度だとか、某所で目にした。

値上げしてでも存続してほしかった読者も、少なくないだろう。
存続のために必要であったなら、一冊千円が二千円になったって、自分は買っただろう。
店頭販売のない雑誌を定期購読する読者なのだから、普通の雑誌の読者とは思い入れが違ったのではないだろうか。

印刷と配本にコストがかかるなら、PDFでダウンロード販売でも良かった。同じ編集部で、有料でWeb化してくれれば良かったのに...
(ちなみにエイビーロードも、インターネットの普及によって情報の即時性が求められるようになり、月刊誌の存在意義が問われ、無料でWeb化した。)

冗談みたいだが、今月号に「米既存メディアに吹きすさぶ寒風」という記事があった。この2年で、米メディア界では4万7千人が職を失ったという話だ。ここに書かれている、メディアが経営を悪化させた3つの理由は、恐らくフォーサイトの休刊理由の(1)と(3)にも関係する。自戒の念を込めての掲載だろうか?(苦笑)

1、不況による広告収入の激減
2、収入源になっていた求人広告や不動産情報が無料のネットサイトに奪われた
 (既存メディアよりも、広告効果が分かりやすいため重用される)
3、読者の生活習慣の変化

特に「3」が重要だ。
携帯電話などで短いニュースを「見る」ことに慣れた人々は、新聞で深く「読む」ことをしなくなったというのだ。

記事は、その結果として、地方紙の衰退で記者の減った各地の州都で、既に州政府の腐敗が目立つようになったという。そして、権力の監視という、民主主義の存立に必須の伝統的メディアの役割をどう守るか、様々な事例が紹介されていた。


しかし思うに、日本での「3」の変化は、ちょっと違うのではないか?
例えば、政治的なニュースに興味すら示さなかった層が、短くとも、ネットでニュースに「触れる」ようになったとも見える。mixiなど利用していると、興味がなくともニュースが目に入るようにサイトが作られているから、言葉足らずのニュースを鵜呑みしたり誤解したりして日記を書いている人々を多々見かける。そして、2ちゃんであれ、まとめサイトであれ、興味を持った個別の事案について、日本のネット利用者は、「読む」ことを嫌っていない気がする。少なくとも、twitterで政治家と直接つぶやける現在、一方通行の伝統的情報メディアのみの時代より、民主主義が進歩してる気がする。mixiも2ちゃんもtwitterも利用しない人は、既存メディアに依存したままだろうから、「3」は該当しないかもしれない。

問題は、「チラシの裏の落書き」と、「価値ある情報」の違いを、見分けられない人が少なくないだけだ。世の中には、買うべきニュースソースがあることを知らない層が、増えたかもしれない。そういう意味で、日本にも「3」が該当すると思うし、そういう意味で、フォーサイト休刊理由の(3)も正しいとは思うが、解釈は逆だ。インターネットの普及で、国際政治経済情報を扱う月刊誌の役割が大きく変化したが、だからこそ「重要度が増した」と思っている。

インターネットの普及で、有象無象の情報が氾濫している今こそ、フォーサイトの視点で、月刊誌ペースで深みのある情報を提供するメディアが必要だと感じる。しかしそれが、紙媒体である必要は無い。


ちなみに今月号では、アフガニスタン、イラン、イラク、アメリカ、ロシア、中国、北朝鮮といったいつもの記事もさることながら、以下の記事を集めた『「王室」の研究』という特集が良かった。
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女性が担う欧州王室の未来 三井美奈
二つの民族間で揺れるベルギー王室の挑戦 大野ゆり子
「王制論議」が示すタイ社会の地殻変動 樋泉克夫
ハシム家とサウド家「二人のアブドラ」 三井美奈
両陛下カナダご訪問に見る「皇室外交」の意味 西川恵
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加えて、歴史作家が連載する「国際人のための日本古代史」では、『遷都1300年「平城京」で起きた聖武天皇と藤原氏の暗闘』だ。

こうして、現代における各国の王室の状況と、皇室外交のあり方を特集しつつ、はるか昔の政治の道具そのものだった天皇に関する史実も読んだ上で、小沢の問題発言についての記事も読める。

いやはや面白すぎる。こんな雑誌が休刊とは、本当に残念だ。

世の中、即時性を要する情報と、そうでない、短絡的では困る情報があるのであって、インターネット時代であろうと、月刊誌のペースで情報発信する媒体の存在意義は、十分にあると思う。ネットは、読者の情報収集能力に依存した情報を得るには適しているが、自ら日常的な興味の範囲外について、多重的かつ多様な情報を吸収するには、信頼できる編集部の視点に一定程度依存できる雑誌は、大変有り難い。Googleの検索結果とは違う。

また、そういう情報は、毎日大量に得られることは望まない。一ヶ月に一度、フォーサイトが届くのは楽しみだったし、届くと興味の有無に関係なく、一気に読破した。ネットでは、毎日情報が氾濫していて、そこから取捨選択し、無駄な情報を排除するのに必死だが、月刊誌に接する場合、情報への自分の接し方は、180度異なる。

民主主義には、両者が必要なんじゃないか?


ところで、フォーサイトの場合がどうだか知らないが、大半の出版社には、「紙」の流通に関する異常なピンハネ構造があって、出版コスト削減を阻んでいる。もしかすると、ピンハネだけではなく、Web化で「紙」が無用となること自体に抵抗してたり...と想像したくなる。

旧態依然とした二重三重の「卸」が、仕入れや納入の実態なくして、利益だけ取っている場合が多いそうだ。出版社は、印刷会社から紙を購入すれば、効率的で安価にできる。ところが、そうしている出版社はごく少数派。大半は、製紙会社から二次三次卸を経由させた紙を、印刷会社に納入して使う。そして卸は、実は出版社自らが設立していたり、何故か出版社毎に特定の「卸」が独占していたりして、そこには出版社の創業者一族が名を連ねていたりする。営業努力なしに常に黒字の、優良企業だ。

どこの世界にも、かつては存在意義があったのに、今は無用な長物と化してしまった既得権益団体のようなものがあるものだ。そういう仕組みの効率化こそ、先に着手されるべきだ。しかし現実は、淘汰されてはならない情報誌から、インターネットの影響を言い訳に、淘汰されてしまう。インターネットは悪くないのに...


さて問題は、今後だ。
読者数の多い雑誌は、買う価値を感じない。
学生時代、サブカル雑誌と化したガロをレジに持っていった時の心理に似ているw

あ...だから、自分の買う雑誌は、軒並み消えていくのか?(自爆)


フォーサイトと多少近い雑誌に、「選択」がある。上記の紙流通の問題は、実家になぜか届けられた、「選択」の試供本に掲載されていた。興味深い雑誌だ。しかし、フォーサイトと違って、各記事の執筆者が無記名なのが気持ち悪い。


困ったな...

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このページは、ranpouが2009年12月22日 23:32に書いたブログ記事です。

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