情報収集衛星の計画性

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北監視を主目的とした偵察衛星「光学3号」が、H2Aロケット16号機で無事打ち上げられた。成功自体は喜ばしい。しかし、偵察衛星の運用に関する説明が、どうもおかしい。

http://mainichi.jp/select/today/news/20091128k0000e040022000c.html(2009年11月28日 毎日)
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03年11月にH2A6号機の打ち上げに失敗し1組2基を失ったが、06年9月に光学2号機、07年2月にレーダー2号機の打ち上げに成功。これにより「2組4基」態勢が確立。だが同3月にレーダー1号機でトラブルが発生、現在は「2組3基」の変則態勢で運用している。政府はレーダー3号機を11年度に打ち上げる予定で、成功すれば「2組4基」態勢を回復できる。
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2003年3月28日、H2Aの5号機で打ち上げられたのが、「光学1号」と「レーダ1号」だ。そして、2007年3月25日、「レーダー1号」は故障して使えなくなった。

2003年11月29日、指令破壊したH2Aの6号が、「光学2号」と「レーダ2号」を同時に打ち上げようとして失敗したやつで、424億円が一瞬で消えた。今から、丁度6年前の話だ。

しかし、これら偵察衛星の耐用年数は、どれも5年だ。
どうして、最初から1年前には耐用年数を迎えることが分かっていた衛星に関する、打ち上げ失敗や故障を理由に、いまだに運用計画が達成できずにいることの正当化理由につながるのだ?

一切の打ち上げ失敗や衛星故障がなくとも、1年前の2008年11月には、全ての衛星の代替衛星打ち上げが予定されていたのでなければ、この偵察衛星計画は最初から破綻していたことになる。

内閣衛星情報センターは、2003年中に「2組4基」の運用を前提にすることで、天候などに左右されず(昼間は光学衛星夜や曇りならレーダー衛星)、地球上のどの地点でも1日1回撮影できることを目的としていたのだろ?

5年の耐用年数の衛星で。

それが、6年経過した今でも達成できていないなら、計画の杜撰さを現す以外の何者でもない。膨大な税金を投入しておきながら、だ。


実際には、打ち上げ失敗した分の代わりに、2006年9月11日に代替の「光学2号」がH2Aの10号で、2007年2月24日に代替の「レーダー2号」がH2Aの12号で、それぞれ打ち上げられた(後者では、光学3号機実証衛星も同時に)だけだった。

一応これで、2007年2月24日~3月25日の約1ヶ月は、「2組4基」態勢が確立したとされているが、実際には打ち上げから軌道調整には時間がかかるので、「2組4基」態勢で運用できたとは信じがたい。官僚は、そういうことは説明しないだろうが。


そして今回、2009年11月28日になって、やっと「光学3号」が打ち上げられたわけだ。2007年3月25日に壊れて「2組4基」態勢を破綻させたのは、レーダー衛星なのに...


何のことは無い。

現在、「2組3基」の変則態勢で運用せざるを得ないのは、打ち上げ失敗や故障の影響ではないわけだ。もし、耐用年数を考慮したまともな計画が立てられていたなら、打ち上げ失敗や故障が一切なくとも、1年前までには第2世代の新規の衛星が「2組4基」打ち上げられていたはずだ。また、耐用年数を超えても衛星を酷使するような馬鹿な計画であったとしても、「2組4基」態勢を目標とするなら、壊れて足りないレーダー衛星を早く打ち上げるべきではないのか?


「2組3基」の変則態勢の内訳は、耐用年数過ぎても運よく生きてる光学1号光学2号レーダー2号(+光学3号機実証衛星の変則4基態勢とも言える)だったのが、今回の打ち上げで、光学2号光学3号レーダー2号で、変則3基態勢になったのだろう。

次の打ち上げ予定は、2011年の(またしても)光学4号(寿命を迎える光学2号の代替)で、同年中に(やっと)レーダー3号が予定されていて、これでやっと2組4基態勢(光学3号光学4号レーダー2号レーダー3号)が確立するという。

2003年の計画から、8年遅れての達成予定だ。

しかし、その時にはレーダー2号が寿命となるわけで、レーダー3号は2号の代替でしかない。またもや耐用年数を無視した計画で、2組4基態勢確立とは片腹痛い(苦笑)

2012年に予定されているレーダー4号が成功して、初めて2組4基態勢が確立するというのが、本当の説明のはずだ。9年遅れました...と。


こんな馬鹿な話があるかと、2001年7月の「宇宙開発委員会 計画・評価部会(第7回)議事録」を見ると...

内藤(内閣衛星情報センター):
現在は、第一世代といたしまして4機の衛星の開発を進めております。第一世代の4機の衛星につきましては、平成14年度冬季及び平成15年度夏季に2機ずつデュアルロンチで打ち上げるという計画でございます。この衛星の設計寿命は5年でございますので、5年後には、この次の世代の衛星を準備する必要がございます。

お、分かってるよね。

安全保障に実用衛星として使う衛星であることから、さまざまなリスク管理に配慮するべきだという御指摘がありまして、次期衛星の中の2機につきまして、次期衛星1と呼んでおりますが、予備機的な性格を持たせて、なるべく短期に開発し、もし万が一第一世代衛星にトラブルがあった場合には、この2機で最低限のバックアップを行おうという構想になっております。

ふむふむ。

次期衛星も全部で4機を予定しておるんですが、次期衛星1で前倒しにした2機を除きます残りの2機につきまして、次期衛星2と呼んでおります。この次期衛星2につきましては来年度から研究を開発いたしまして、第一世代の寿命が尽きると思われます平成20年度の打上げを計画している。

なるほど、平成20年(2008年)度には、第二世代の衛星で「2組4基」態勢が確立する計画だったわけだ。ところが、次期衛星2の内の光学衛星が、今回の打ち上げた3号なわけで、1年遅れたと。

光学衛星につきましては、この衛星を利用する予定になっております各省庁からの要請でありますとか、諸外国の光学衛星の開発動向、さらには、先ほどからお話もありましたが、財政状況等も考慮、費用対効果も考慮いたしまして、次期衛星2では、さらなる高分解能化を目指す必要があるとセンターの方では考えております。

光学衛星は開発に時間がかかるから仕方ない?

なお、レーダ衛星につきましても、同様に諸外国の動向であるとか、費用対効果等も考えた結果、財政動向もありまして、基本的には次期衛星1と同等の性能とすることを考えております。

でも、レーダー衛星は次期衛星1(これが代替のレーダー2号となった)と同等なんだから、時間かからないよね。何でそれが、2011年のレーダー3号まで打ち上げないわけ?

第一世代衛星及び第一世代の予備機的な性格を持ちます次期衛星1につきましては、なるべく短期間で開発をして、実用に供しようということから、非常に短期間の開発で整備を進めておりますが、次期衛星2につきましては、分解能を向上するという目的のために所要の期間をかける必要があろうと思います。先ほどのスケジュール表にもありましたが、6年半は必要であろうと考えています。

へ?
6年半?
この議事録は2001年7月だから、その「来年度から研究を開発」するなら、2002年度から着手で、「6年半」ってことは...2008年11月までの打ち上げなんて、計画通りでも最初からギリギリじゃんか!

何のことは無い。最初からこの計画は、失敗や故障がなく耐用年数通りの運用が成立していても、第二世代が少しでも遅れれば、2008年11月には「2組4基」態勢が破綻する可能性が十分に予測可能だったわけだ。

世間では、そういうの、「無計画」というのでは?(苦笑)


2007年にレーダー1号が故障した時の報道を見た時、
http://www.sankei.co.jp/seiron/wnews/0704/web-news0402-1.html
耐用年数より1年早く故障しただけで、何で「今後約4年間、北朝鮮の軍事基地など「地球上の任意の場所を1日1回以上観測する」構想が実現不可能となった」のか、理解できなかった。計算が合わないじゃんか!と(苦笑)

ところがこの時点で、既に計画は遅れていて、耐用年数通り運用できても2008年~2011年までの3年間は、目標とする2組4基態勢が欠けることが分かっていたわけだ。しかも本当は、それすら耐用年数を超えた運用が前提で、本当に態勢が整うのは2012年というのが事実だった。


もう一度、2001年7月の「宇宙開発委員会 計画・評価部会(第7回)議事録」を見ると、こんなやり取りがある。

八坂特別委員:
次期は2機で運用ですか。」(第二世代のこと)
内藤(内閣衛星情報センター):
次期衛星1と次期衛星2を一応次期ととらえているんですが、この4機で、第一世代と同等な運用が実現できるんではないかと思います。
八坂特別委員 :
だから、ライフが尽きると、また次のを打つとかいう話になって、継続して運用されるんだと思うんですけれども、最終的にはこれは、分解能が伸びるとか、機能的に高くなっていくんでしょうけれども、それに付随して、運用の機数というのは一体どういうふうになるとお考えでしょうか。
内藤(内閣衛星情報センター):
現在、第一世代衛星を打ち上げる段階で、4機という形で進めております。当面はこの4機の枠内でやらざるを得ないんじゃないかと思いますが、さらに先まで行きますと、まだ何も固まっていない状況です

...ということで、初めから計画性ありませんでした(苦笑)


考えてみれば、レーダー1号故障代替レーダー2号の打ち上げが1ヶ月前後していたら、レーダー衛星ゼロの期間が発生していたかもしれないくらい、杜撰な計画だ(^^;;;

これがお咎めなしというのは、本気で国防を考えているとは到底考えられない。
実は、単なる国防利権を食い散らかすのが主目的じゃなかろうな?

頑張ってこれしかできなかったなら、悲しくなる...

予算が足りないなら、その予算でできることを目標とすべきで、実現不可能な「2組4基」態勢を目標に掲げること自体が、計画性がない。

無計画すぎて、当時事業仕分けがあったなら、確実にぶった切られてたのではないか?(苦笑)

参考:
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/utyuu/pc/090428/keikakuan.pdf
最終ページの「別紙2:9つの主なニーズに対応した人工衛星等の開発利用計画(10年程度を視野)」

蛇足:
事業仕分け自体は、自民党時代から一部の議員が非常に頑張ってやっていたので、民主党の専売特許ではない。要は、いくら事業仕分けを頑張っても、それが無視されてきたことが問題だったので、民主党の事業仕分けも、今後が重要。

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このページは、ranpouが2009年11月30日 07:01に書いたブログ記事です。

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