羽田HUB化だけじゃ...

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フォーサイト11月号に、『民主党が抱えこんだ「JAL再生」という地雷』という記事と、『「ジャンボ機の後輪」北海道経済が示す先』という記事があった。

http://www.shinchosha.co.jp/foresight/20th/2009/10/0911cont.html

別個の記事なのに、実は関連性があって面白い。

前者の記事は、今月24日から公開の映画「沈まぬ太陽」の話から始まる。
http://shizumanu-taiyo.jp/

原作はフィクション小説なのだが、そこに出てくる国民航空という航空会社はJALそのもので、あからさまにJALの問題だと分かる内容のため、JALが映画化に何度も抗議文を送っているという、いわくつきの映画だ。ナショナルフラッグ・キャリアの腐敗と、日航機墜落事故を主題とした作品が、JAL再生が問われている今、絶妙のタイミングで公開するそうだ。

記事では、今回JALが経営危機に至った構造は、この小説の物語と、よく似ているというのだ。映画を物凄く見たくなったw

で、記事の趣旨としては、JALの再建計画が一蹴される経緯や、前原大臣が設立したタスクフォースの面子、大臣の目指す方向性を論じつつ、その手法に疑問を呈する。

オープンスカイ政策に唯一乗れない先進国となってしまった日本で、ぬくぬくと保護されて腐敗したJALは、資本注入やリストラで復活などしない。年率4.5%の運用利回りを前提とした、JALの企業年金の重みを、市場の実勢に近い水準に引き下げ、給付を減額しなければ、財務内容は改善しないが、OBがこれに反対する。

更に、JALにとっての経済効率を優先した、路線集約、不採算路線の廃止は、民主党のマニュフェストに反し、地域主権の確立とは矛盾する。地方経済の衰退を、食い止めるのではなかったのか?という感じの論調だ。

もっともそれは、数ある自民党政権の尻拭い(地雷)の一つで、その処理と市場の現実のはざまで、これから長いドラマが始まるというまとめ方。読みながら頷いてしまった。

特に、記事中の、「航空会社の収益力の国際比較」という図表は、JALの情けない立ち位置が驚くくらい分かりすぎて良かった。

同じ執筆者の、フォーサイト2007年7月号の記事が、丁度ピックアップされてホームページで公開されてるので、これも必見だ。今読むと感慨深い(^^;
http://www.shinchosha.co.jp/foresight/20th/2009/10/76.html
http://www.fsight.jp/article/3496

で、後者の記事が、見事に前者の記事とリンクする。
後者は、北海道経済が「ジャンボ機の後輪」と揶揄される所以を紹介して始まる。景気が上向いても、北海道が上向くのは最後、景気が下降する時は、全国に先駆けて北海道が着地する。今、その北海道が、景気の底板を踏み抜こうとしており、これに遅れて全国経済のハードランディングがやってくるか?と。

北海道の観光産業の状況を紹介しながら、阿寒湖のとあるホテルの状況に触れる中で、釧路空港からJALが撤退を検討している話が出てくる。
http://www.newakanhotel.co.jp/access.html
阿寒湖への本州からの入口は、釧路空港だが、女満別、帯広の3空港とも、既に関西便が全面運休だと。

この記事自体は、北海道経済の抱える問題点を取り上げる中で、上記に少し触れるだけなのだが、これを前者の記事とリンクすれば、とても興味深いのだ。

地方経済の衰退と、JALの経済効率を優先した路線撤退との関連の、具体例という感じ。

このブログでも、JALの救済は、国交省の観光立国政策と矛盾するということを書いてきたので、上記二つの記事は、大変興味深く読めた。

こういうレベルの記事を読むと、改めて、以下のような新聞の酷さに苦笑せざるをえない。

http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/mnews/20091007-OYT8T00359.htm
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日本航空の国内151路線のうち約9割が、今年4~7月の平均搭乗率で採算割れの状態にあることが、6日わかった。全体の3分の1を超える52路線が50%を割り込んでいる。経営基盤であるはずの国内線で深刻な赤字体質が明らかになり、日航が路線リストラの上積みを迫られるのは必至だ。空港整備のための特別会計の見直し論議にも拍車がかかりそうだ。
<--

上記読売の記事は、このブログの2つ前の記事でも批判的に取り上げた。ところが今日は、朝日が同様の記事を大々的に取り上げてる。

http://www.asahi.com/national/update/1023/TKY200910220558.html
-->
日本航空、全日本空輸グループの国内線計274路線のうち、7割超の193路線が損益分岐の目安とされる搭乗率60%を割り込み、「赤字」状態に陥っていることが、4~8月の輸送実績などから分かった。
<--

読売と朝日で、雁首そろえてこのレベルだ。
君らは、新型インフルエンザで観光需要もビジネス需要もズタボロだったこと、知らないのか?
しかも、前年比で何%悪化って、リーマン・ショック前との比較だろ?

この時期を基準に、不採算な事業は撤退すべきというなら、日本の観光産業はみんな店じまいだ。

もし、「JAL再生タスクフォース」とやらが、読売や朝日と同じレベルの思考能力しかなかったら、「観光産業破壊タスクフォース」に改名すべきだが、まさかそんなことはないと、信じている。

やっと生き残っている地方の観光地は、JAL、ANAの安易な撤退を肯定するかの君らの恣意的な記事で、戦々恐々としてることだろう。君らが、JALやANA、国交省とどういう関係か知らんけど、少しは頭使って取材しなさいな、と言いたい。

前原大臣の言う羽田HUB化は、上記2つの記事の言うような基準で路線撤退を認めたら、成立しない。もちろん、同じく前原大臣の言う、観光立国だって無理だ。

観光立国で地方経済を活性化させるには、今、観光産業を苦しめない政策が必要で、安易な路線リストラを避けなければならない。しかし、JALやANAの高コスト体質では、観光立国のインフラは支えられないのだ。このアンビバレンツをどう解消するかという視点からの、まともな考察に基づく記事を書いてみたら?


前原大臣は、韓国の仁川のHUB空港の座を奪いたくて、羽田をHUBにすると言ってるわけだが、成田とWinWinとか言っている。これは、リップサービスでなければ、問題点を理解していない証拠になってしまう。中心軸が二つあるような変形HUBでは、中心軸周辺に住む者にだけ、利便性が増す。スポークの末端である地方からすれば、そんなHUBは不良品だ。

確かに今まで、「成田は要らない子」だった。羽田を活用するのは、正しい。それだけでも大前進とも言える。しかし、仮に現状で、JALやANAに国内の地方空港から羽田に路線を就航させ、HUBの形式が整ったとしても、利用者は仁川経由を好んで使い続けるだろう。

何故なら、問題の根本は路線の存否ではなく、JAL等の国内線運賃が高すぎ点にあり、JALで国内移動するより韓国の航空会社で仁川経由で他国へ旅行した方が安いのなら、結局誰も羽田になど行きたがらない。加えて、一般的な感覚でも分かるだろうが、目的地と違う経由地であっても、外国の空港を短時間でも味わうのは、旅の楽しみでもある。何より、アジア各国の新しい空港は共通して、羽田や成田のような古い空港とは異なり、華やかさ、快適さがある。

つまり、競争相手に勝てるだけの利便性がなければHUBにならないが、JALを生かすなら到底無理な要求なのだ。JALが、LCCとして再建し、安価な運賃を実現するなら話は別だ。しかし、それなら新しいLCCを育成した方が早い。また、成田が国際線で残る以上、地方在住者は、羽田→成田の無駄な移動を強制するのが当たり前と考えていることになる。バスだろうと、高速な鉄道が完備されようと、旅行者の立場なら、その交通費を負担するのもバカバカしいし、旅行の荷物を運ぶ手間は、シャレにならない。HUBにしたいなら、常に旅行者の目線でのサービス構築が必須だが、これが圧倒的に欠けている。

羽田と成田をWinWinにしたいなら、最低限、地方-羽田の空の運賃、羽田-成田の地上の運賃の合計が、地方-仁川より安くなければならない。利便性で負けるのだから、コストくらい勝たなければ話にならない。

JAL救済+羽田HUB化+成田国際線存続=観光立国

ということには、絶対にならない。


ただし、羽田と成田を合わせても、需要を満たさないことは確かだ。というか、それで足りてしまうなら、観光立国にはなれない。将来、茨城空港などの活用は、必須のはずだ。
茨城空港の利活用に関する調査研究

首都圏に空港が複数あること自体は、決して悪ではない。そんな国は、いくらでもあって、成功している例も沢山ある。多少不便でも、安価に利用できれば、十分に需要は喚起される。

ところが、TVなど見ていると、「今」需要が無いなら、地方空港は無駄だと決め付ける、低レベルな情報番組が堂々と朝から放送されていて呆れる。物事を偏った側面からしか見ることができないキャスターたちは、見ていて痛々しい。安易に地方空港が無駄だと報道し、経営努力をせずに怠慢で撤退するJALに有利な情報ばかり流してはいけない。観光立国を目指す日本の「将来」に、本当に必要な空港の重要性を、伝えるべきだ。

この点は、実は前原大臣も分かってないのではないか。HUB AND SPOKE型の路線構築しか知らないのではないかと、最近感じる。HUB化しか選択肢が無いと、誰かに嘘を吹き込まれたのではないか?

LCCの手本といわれるアメリカのサウスウエスト航空は、POINT TO POINT型の航空網で、アメリカの地方空港間を結んで成功している。

日本は、空路などなくとも、鉄道などで東京へインフラが集まっている。だからこそ、鉄道と競合する空路が、存在意義が問われるのだ。対して、地方から地方へのアクセスは最悪で、空路の存在意義はそこにある。つまり、POINT TO POINT型だ。

羽田がHUBになるのは構わないが、POINT TO POINT型のLCCが必要だと、早く気付いた方が良い。地方空港と利用者のWinWinこそ、必須なのだ。


ちなみに蛇足だが、このブログで何度も取り上げてきたカボタージュ問題が、やっと議論に上がってきたのは、興味深い動きだ。

http://www.travelvision.jp/modules/news1/article.php?storyid=42680

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このページは、ranpouが2009年10月23日 21:41に書いたブログ記事です。

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