フォーサイト7月号に「「返還後十年」を迎えるマカオの憂鬱」という記事があった。
http://www.shinchosha.co.jp/foresight/20th/2009/06/0907cont.html
http://www.fsight.jp/article/5005
カジノ好きとしては、これは触れないわけにはいかない(苦笑)
何しろ、その記事の冒頭はこうだ
「この世にマカオを嫌いな人がいるのだろうか。」
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大大大大大キライだ!!(自爆)
しかし、久々に行ってみたい気もする。自分がマカオに二度と行くものかと誓ったのは、2000年の話である(遠い目)。中国返還から2ヵ月後に、勝負に行ったのだ。ラスベガスと比較して、最低なカジノだった。夜は、呼んでもいないのに、売春婦がホテルの部屋の戸を叩いて売り込みに来たものだ。
記事も、そんなアジアの場末のカジノであった当時を振り返りつつ、現在の繁栄への道のりを取り上げ、中国の影響力の強さを香港と比較しながら憂鬱にしてくれる。バカラを使ったマネーロンダリングの例や、北朝鮮との係わり、マカオの支配層と中国の係わり...しかし、どうもいただけない。
~マネーロンダリング~
そもそもまず、バカラのマネーロンダリングの説明からしていただけない。カジノに詳しいマカオのホテル経営コンサルタントの話だというのだが...
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ここにダーティーな出所の百万ドルがあるとする。最初に全部をチップに変え、二人組みになってそれぞれ1万ドルを親と子の勝ちに賭ける。確率的に親と子の勝ちは同じ回数出るわけだから、百回ゲームを終えたとき、百万ドルはたった2.5%の手数料を払っただけで97万5千ドルのクリーンな「カジノの戦利品」に生まれ変わり、ロンダリングは完了というわけだ
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これが、カジノに詳しい人間の説明でないことは、明らかだ。
バカラは、バンカーとプレイヤーの勝率は、確率的に同じではない。バンカーが勝ちやすいのだ。だから、5%のコミッションを設定し、ハウスエッジのバランスを取る。ということで、ルールの解釈が間違っている。コミッションとハウスエッジは、同等ではない。
更に、二人組みで1万ドルづつバンカーとプレイヤーに賭け、100回ゲームするには、計200万ドル必要だ。掛け算間違ってる...
で、100万ドルを50万ドルづつ2人で分けて、50回勝負し、仮に25回づつ双方が勝ったとして、その結果の合計は、48.75万ドル+50万ドル=98.75万ドルだ。2.5%も取られるわけなかろーに。
バンカーにかけて勝ったら、掛け金(100%)+配当(95%)が戻ってくるのであって、全体が95%になるわけじゃない。
まあ、そんな数字どうでも良いとも思うが、そもそも、これはマネーロンダリングになっていないのだ。客観的に、同じカジノでチップに交換し、更に現金に戻しただけであることに変わりなく、金の存在に変化がない。それで、一体誰の目を誤魔化せよう。
ネバダ州では、例えば3千ドル以上の現金もしくは現金相当の有価証券同士の両替や送金を禁止する規定が、カジノの業務法の中に盛り込まれている。カジノでのマネーロンダリングとは、ゲームをすることではない。両替、送金が問題なのだ。
仮に、98.75万ドル全てが、カジノの勝ち金と言い訳するなら、税金としてイクラ持っていかれるか、計算して欲しいものだ。
逆に実は、マカオに金が集まるのは、税率の低さこそがポイントだ。タックスヘイブンなのだ。そっちの方が、論じる価値があるように思う。バカラでマネーロンダリングできると言うなら、ラスベガスでもソウルでも可能であって、マカオで論じる意味がないのだ。
~香港との対比~
中国がマカオを牛耳るため、香港では反対デモに発展して頓挫した国家保安法が、2月にマカオで可決したそうだ。この対比は面白い。国家反逆罪や国家分裂罪など、国家の安全に危害を及ぼす犯罪行為を、中国国内と同様に治安維持できるようになったというのだ。手を焼く香港に比べ、マカオは従順というのは、何か面白い。金持ちや権力層が、中国にベッタリの人物で固められているという説明は、分かりやすい。できれば、一般市民からの評判など、興味が沸くところだ。
しかし、従順な理由の一つの、中国に観光客という蛇口を握られているからというくだりが、またいただけない。記事では、一国二制度の成功のため、それまで甘かった中国が、昨年、中国からマカオへの個人観光客の渡航に制限を加え、これがマカオ経済に大打撃を与えたというのだ。その理由はこうだ。
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表向きの理由は加熱するカジノ経済を抑制するためだが、実際の目的は堕落の兆しを見せていたマカオへの「警告」と見られる。
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そんなことはない。規制は、中国人のギャンブル好きに対するものと、素直に見て良い。
中国は、確かに本土からの観光客を制限した。しかし、マカオは、それによって大打撃など受けていない。昨年10月時点で、本土からは10%の客が減ったのは確かだ。しかし、東南アジアからは2倍以上に増え、日本からの観光客も増え続けたのだ。その後は、経済危機の影響だ。
もともと、中国本土からの客は、短期滞在や、日帰りばかりであることが問題であった。シルクドソレイユのショーは、ラスベガスでは1日2回が普通で、遅い回は22時~でも好評だ。しかし、マカオでは、滞在客が少ないため、22時では日帰り客が帰ってしまい、ついにはその時間帯のショーは取りやめになったくらいなのだ。
この、効率の悪い中国本土からの客に隔たりすぎた状況を改善し、他国からの長期滞在型の観光客を増やすことは、マカオにとってとても良いことなのだ。
エドムンド・ホー行政長官が、カジノ業界の締付けへ向けた政策を発表したのは昨年4月だ。新たなカジノライセンス(サブライセンス含む)の発行を停止したのだ。つまり、新規参入を禁じ、過当競争を避け、既存のカジノの保護に動いたわけだ。記事では、エドムンド・ホーは中国政府に首根っこを押さえられた人物と評されているが、そうなら、中国が既存カジノを優遇したことになる。渡航制限だけを、偏った視点で見てはいけない。カジノ経済の抑制は、実際に必要だったのだ。観光客を制限されたから、法律を懸念する声が無視され、マカオで国家保安法が可決されたという三段論法は、かなり疑問だ。
そんな圧力と関係なく、マカオが従順な点こそ、興味が沸く。マカオと香港の、似て非なるものという視点は、今後も掘り下げて注目したい部分であって、そういう視点を与えてくれた記事には、感謝である。そんなネタ、取り上げる雑誌なんて、かない珍しいのではないか?
蛇足:
一昨日、マカオとラスベガスと双方のヴェネチアンホテルの、トーナメントなどのイベント情報や、直行便情報、香港からのフェリーの無償サービスの案内だの、いくつかが封筒で届いていた。こんなものを律儀に送ってくるのは、ラスベガスでVIP時代に、僕を担当していたカジノホストが、今でも優良プレイヤー(カモ)として名簿に登録してくれているからだろう。当時の担当の彼女は、パリスラスベガスに勤務していた。その前は、シーザースパレスだったとか。そして今は、ヴェネチアンなのだ。ラスベガスのカジノ業界の激動にもまれているかのようだ。以前、1万ドルちょっと負けて帰国した翌週、PHSに電話をくれた際、次回は500ドルキャッシュバックすると約束してくれたのを、彼女は覚えているだろうか...orz
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