■近親相姦
>22日に発表された改正案では、規制する対象を「強姦や近親相姦(そうかん)など、刑法と民法に違反する性行為を不当に賛美して描写する漫画やアニメなど」と定義し、18歳未満への販売を規制するとしている。
え?
近親相姦は、刑法でも民法でも禁じられてないっしょ。
本当にそんな誤った定義を掲げてるなら、大問題だと思うが。
(日テレさん、ソースはどこ?)
近親婚はできないけど(民法734~736条)、合意の上の近親相姦はもちろん、子供生んだって違法じゃないぞ。近親婚の禁止だって三親等内の話であって、いとこ同士なら結婚もできる。
そういう根本的な勘違いで、単なる社会倫理規範を条例(法規範)に織り込んじゃってるなら、唖然とする。こういう思い込みが、差別につながったりする。
そてにしても、今度と前回の改正案の条文の一部を比較すると、「非実在青少年」という言葉は消えたけど、規制範囲が拡大しているってのが更に驚きだ。
都条例改正案比較が、こちらにアップされている。
http://tsukurukari.blog3.fc2.com/blog-entry-34.html
「図書類等の販売及び興行の自主規制」についての7条と、「表示図書類の販売等の制限について」についての9条の2は、以前はそれぞれ「非実在青少年」についての性描写を制限していた。
ところが今回は、「漫画、アニメーションその他の画像(実写を除く。)で、刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為又は婚姻を禁止されている近親者間における性交若しくは性交類似行為」という表現になった。
最早、描写の対象が(非実在)青少年に限定されず、(非実在)成人でも規制対象になったことになる。
まあ、非実在青少年なんて被害者を妄想ででっち上げず、単純に性描写を規制するという意味では、少しはマシになったと言えなくもない。しかし、それならそもそも、条例改正の必要はなく、現行条例で対応できるという批判がより正しくなる。
現行条例の7条1項で、「青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な育成を阻害するおそれがある」内容なら、既に規制されているのだ。
今度の改正案がどうしても必要だとするなら、今までと違う意味を意識的に解釈する必要があるだろう。特に、刑罰法規に抵触する行為と別個に、「婚姻を禁止されている近親者間における性交若しくは性交類似行為」について、なぜ特に描写を規制する必要があるのか、ピンとこない。
具体的に近親相姦をわざわざ明記したということは、単に過激な性表現や、性犯罪の描写から青少年を保護する意図ではない。少数とはいえ、社会的に一定の割合で起こり得る愛の形で、多数者からはタブー視されていても、決して違法でない特定の性行為を、社会規範に反するという理由で描写すら排斥しようとしている。それ、差別の一種では?
性的虐待などなら、刑罰法規に抵触する性交類似行為の方に入るわけで、改正案の近親相姦には含まれない。合意の上の近親相姦など違法でないのに、それの描写を規制対象として明記するには、それが社会的な差別の根拠とされないような、説得力のある理由が必要だろう。
世の中、法律婚ができずとも、近親者で事実婚状態の夫婦なんて珍しくないのだ。近所じゃ夫婦と思われてるけど、実は兄妹とかね。同性愛のカップルが、婚姻の代わりに養子縁組するって話もあるが、異性でも、先に性的関係があってから親子になる、妾を養子にするパターンもある。性的関係があっても親子になれるってのが、我が国の判例の一般的な立場だ。
ところが、冒頭の記事によると東京都は、近親相姦を違法行為だと勘違いしていることになる...誤報?メディアは気付いてない?
■社会規範
前回の改正案では、社会規範に関する記述があり、今回の改正案でもその部分は残っている。
「不健全な図書類等の指定」についての8条で、「知事は、次に掲げるものを青少年の健全な育成を阻害するものとして指定することができる。」として掲げる2号で、「第7条第2号に該当するもののうち、強姦等の著しく社会規範に反する性交または性交類似行為」という表現がある。
7条や9条の2の書き方であれば、強姦は「刑罰法規に触れる性交」のはずで、「著しく社会規範に反する性交」と言い換えるのは、整合性がない。
すると、「強姦等」の「等」が言うところの「著しく社会規範に反する性交または性交類似行為」には、刑罰法規に抵触しない、合意の上の「婚姻を禁止されている近親者間における性交若しくは性交類似行為」が含まれる、と考えて良いだろう。
立法者の考えるところの、著しく社会規範に反する性交行為に、適法行為が含まれるというのは、かなり危ない発想だろう。立法者の偏見が滲み出ている。
もしかすると、多様性を認めない立法者のような発想の人からすると、同性の近親相姦は最悪に社会規範に反すると考えているかもしれない。
確かに、近親相姦が一般的にタブーだと言うのは同意する。しかし、そもそも違法ではなく、加えて同性なら、遺伝学的に問題視される出産の可能性がないのだから、実は異性の場合より客観的な問題が少ない。これをタブー視する場合、残るは、単に主観的な偏見しかないということを、強調しておこう。
他国と比べて近親相姦に寛容なのが、我が国の法律の特徴とも言えるのだけど、日本は昔から性に寛容な国である、ということを忘れて、社会規範を振り回してはいけない。
ということで、同性愛者の場合を含め、どうして違法でない行為の描写を規制することが正当化できるのか、かなり非常識な論理の飛躍があると感じる。議論をすっ飛ばして簡単に受け入れられる話ではない。
自分はそっち系ではないから、そういう人々の意見を代弁することはできないが、この改正案が成立した場合に、社会的な差別が助長されないことを祈る。
ま、近親相姦が違法行為だと誤解するほど、行政がバカなはずがない。むしろ、規制派の人々の様々な発言からすれば、違法でない行為を違法行為だとの誤解を広める意図の、確信犯という解釈が適切なのだろう。
■ニセ科学としての規制推進
ところで、規制派の言い分は、まるで「ニセ科学」(エセ科学、擬似科学)みたいだと思っている。規制派急先鋒の東京都小学校PTA協議会(以下、都小P)会長の新谷氏は最近、失言の多いインタビュー記事を削除させたことで話題だが、「幼い頃から二次元児童ポルノ漫画に触れることで、子どもの発達は歪んでしまいます。」と言っている。しかし、条例による規制の必要性を裏付けるデータがあるのかと問われれば、「ない」そうだ。
「『データはあるのか』と言われること自体ありえない」そうで、それくらい自明と思い込んでいるらしい。規制反対派の人々は、単に表現の自由を訴えているだけでなく、色々と客観的なデータを示して、論理的に反対しているのに、規制派はそれを否定することもなく、聞く耳を持たない。
wiki:「擬似科学とは、科学的方法に基づく、あるいは科学的に正しいと認められている知見であると主張されているが、実際にはそうではない方法論、信条や研究を指す」
ま、規制推進派が皆、近親相姦が違法だと思ってるくらいの世間知らずなら、ニセ科学レベルにも達してないかもしれないけど、「幼い頃から二次元児童ポルノ漫画に触れることで、子どもの発達は歪んでしまいます。」という根拠のない知見を前提に、イデオロギーを法規範にして、嫌いな表現を消し去ろうというのはルイセンコ事件みたいなものだ。
(追記:このような、児童のキャラに限定して敵視する合理的理由がないから、今回の改正案では、成人キャラも対象になったのだろうというというのが、「少しはマシになった」と上に書いたポイント。しかし、規制派が言うほど出版界の自主規制は杜撰ではないというのが、出版界の言い分。規制派が、出版界の自主規制の仕組みを理解していないために生じている議論の食い違いは、何故かたった2回で終わってしまっている青少年健全育成のための図書類の販売等のあり方に関する関係者意見交換会の議事録を読めばよく分かる。)
ルイセンコは、スターリンに取り入って、メンデル遺伝学などの研究者を排斥したそうだが、都知事がスターリンの立場か...似合い過ぎ(苦笑)
■蛇足
都条例とは直接は関係ないが、児童ポルノ問題で規制強化の運動に参加している、元高知県知事の橋本大二郎氏は、とてもまともだ。
橋本氏は、規制推進派がおかしいと感じたから、規制運動に参加した(中を参照)というのが面白い。
上:『母の代から続く、日本ユニセフ協会との縁』
http://www.cyzo.com/2010/11/post_5863.html
中:『「単純所持」議論を任せてはいけない人たちがいる』
http://www.cyzo.com/2010/11/post_5870.html
下:『里中満智子さんとアグネス・チャンさんが対談すればいい』
http://www.cyzo.com/2010/11/post_5871.html
橋本氏は、ある報告会での都小P会長の新谷氏の発言等を聞いて、「とてもついてはいけないと思った。一言でいえば、価値観の多様性がまったくない。それで、子どもを守る金科玉条を言っている。でも、被害救済については何もやっていないのではないでしょうか。」と感じたと言うのだから、問題の本質を理解されている。
「(財)インターネット協会も、話していることはおかしくはないけど、要は警察庁の守備範囲を広げたいと思ってやっている。それは、子どもの人権を守る問題とは相当違います」
その通りです。
えっと、うちのスターリン都知事と交代してもらえませんか?(^^;
・その他、ニセ科学と社会規範や、ルイセンコ事件について
http://www.cml-office.org/archive/?logid=366
http://www5b.biglobe.ne.jp/~hilihili/keitou/gokai02.html
■追記:青少年健全育成のための図書類の販売等のあり方に関する関係者意見交換会
この議事録は、発言者個人が特定できないようにされているが、発言内容を見れば、こういう発言をするのが誰だか分かってしまう部分がある。
第1回の34ページの保護者の発言で、近親相姦を描いたらしい漫画について「こういったものを描いた本人、あるいはこういうものを出版した会社が社会的に軽蔑されて、切り捨てられていく、そういった社会になっていくのが理想だろうと思います。」というのがあり、漫画家関係者からの「子どもに見せない努力ということですよね。こういう作品が存在してはいけないというような観点のお話ですか。」という問いに、「あってほしくない」と答えている。青少年の健全な育成が目的ではなく、個人的に嫌いな表現を排斥したいと言ってる保護者といえば、あの人だろう。保護者として都小Pが出席していることは、36ページで分かる。
第2回の15ページの下の方には、本屋でアルバイトしてる大学生から聞いたという話が出てくる。これは、例の失言の多いインタビューの1ページ目にも出てくる。ということで、この保護者は都小P会長の新谷氏だ。他、30ページの下の方で、「今日お見えのPTAの方は都小Pの方と○○県の方で」という出版関係者の発言から、他県のPTAも保護者として参加していることが分かるが、この二人の発言を見分けることは、容易だろう。
なお、33ページからの、出版関係者が自主規制について説明している部分は大変興味深い。38ページで、都が、出版界の自主規制について、「その基準というのが、対外的にしっかり外には出ていないと思うんです。」という辺りから以下、出版界が公開している自主規制の基準を、都が把握すらしていないことが分かる。これ、前回の改正案の後の、8月の会合なんだが...
ツイート