TPP交渉における著作権問題

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■感銘を受けたシンポジウム
先日、シンポジウム「日本はTPPをどう交渉すべきか ~「死後70年」「非親告罪化」は文化を豊かに、経済を強靭にするのか?」の中継を見て、非常に感銘を受けた。
http://thinktppip.jp/?p=128
http://togetter.com/li/526246

もちろん、TPPにおける著作権問題は認識していたし、非常にマズイとも感じていたけれど、TPPそのものに反対する立場ではなく(選挙の時は反対してた議員だらけの自民党が賛成するのは、民主主義的な「手続の正義」に反してクソったれだと思っているので反対だが)、今までなかなか意見表明できなかった。しかし、このシンポジウムの説得力は、著作権問題については自分も何か言わなければという気にさせてくれた。

中でも、特に感銘を受けたのが、青空文庫呼びかけ人の富田氏が紹介された、芥川龍之介の「後世」からの引用だ。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/33202_12224.html
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 時々私は廿年の後、或は五十年の後、或は更に百年の後、私の存在さへ知らない時代が来ると云ふ事を想像する。その時私の作品集は、堆(うづだか)い埃に埋もれて、神田あたりの古本屋の棚の隅に、空しく読者を待つてゐる事であらう。いや、事によつたらどこかの図書館に、たつた一冊残つた儘、無残な紙魚(しみ)の餌となつて、文字さへ読めないやうに破れ果てゝゐるかも知れない。しかし――
 私はしかしと思ふ。
 しかし誰かゞ偶然私の作品集を見つけ出して、その中の短い一篇を、或は其一篇の中の何行かを読むと云ふ事がないであらうか。更に虫の好い望みを云へば、その一篇なり何行かなりが、私の知らない未来の読者に、多少にもせよ美しい夢を見せるといふ事がないであらうか。
 私は知己を百代の後に待たうとしてゐるものではない。だから私はかう云ふ私の想像が、如何に私の信ずる所と矛盾してゐるかも承知してゐる。
 けれども私は猶想像する。落莫たる百代の後に当つて、私の作品集を手にすべき一人の読者のある事を。さうしてその読者の心の前へ、朧げなりとも浮び上る私の蜃気楼のある事を。
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果たしてこの芥川が、TPPで著作権保護期間が死後70年に延長され、しかも著作権侵害が非親告罪化されるかもしれないという未来を知ったら、どう思うだろうか。

著作権が切れてパブリックドメインとなり、青空文庫の方々の努力で無償公開されている結果として、未来の読者に作品がダウンロードされているという現在に対し、「俺の作品なんだから勝手に読むな。金払え。」と言うだろうか。(もちろん、芥川の場合は死後70年も既に経過しているので、今回のTPPの影響はないが。)

そんなに過剰に著作権が強化されてしまったら、自分や作品が忘れ去られてしまうだろうとは思っても、そこまでして自分の作品を死後も守りたいと思って創作活動をするクリエイターがいるとは、どうにも想像しがたい。

■オーファン・ワークス
ほとんどの著作物は、死後50年も待たずに商業的価値を喪失していることがシンポジウムでも明らかにされていたが、商業的価値がなくなってもパブリックドメインにならないとなると、たとえそれを後世に伝えたいと思った第三者が現れても、容易に手が出せない。更に、誰に許諾を得れば良いのかすら分からない、オーファン・ワークスになっている場合も大半なので、権利者の意思に関係なく非親告罪として逮捕されてしまうかもしれないというなら、社会的文化的に価値がある作品を見つけたとしても、それを世間に紹介することが著しく困難なわけだ。

著作者死後70年の保護期間を終えるまで、商業的価値を喪失した著作物が語り継がれる可能性がほとんどないとなると、人類の文化的遺産を喪失させるのが著作権法ということになる。「文化の発展に寄与することを目的とする」著作権法1条にも反する。自分としては、我が国の著作権法が保護する、死後50年でも長すぎるくらいだと思っている。

もともと、著作権保護期間の延長は、ミッキーマウス保護法と揶揄されるくらい悪名が高い(アンサイクロペディアのコレは最高にブラックw)のだが、既に70年に延長している国々でも悪影響が問題視され、実は短縮すべきという議論も始まっている。我が国は、映画の著作物は公表後70年(著作権法54条)に延長しているが、他の著作物の保護期間を延長しようとする動きは、長い議論を経て辛うじて封じられてきた。それが、国内のそうした議論を無視して、TPPだからと簡単に著作権法を改変して良いものではない。

■大御所がパブリックドメインになる時
シンポジウムでは、漫画界では松本零士氏など大御所中心に延長論者が多く、なかなか抵抗できないと赤松氏が弁明していたが、過去の作品を守りたい側の論理と、古典の活用を含めた自由な文化の発展を望む側の論理は、大概において衝突する。(既得権益保護 v.s. 規制緩和による新規参入促進というと分かりやすいか。)松本氏は、手塚作品の著作権が切れてもいいのか等と言うそうだが、手塚の「罪と罰」も「ファウスト」も、ドストエフスキーやゲーテの著作権が残っていたら、果たして描かれていただろうか。パブリックドメインだったから、漫画にできたのではないのか。

個人的には、手塚作品がパブリックドメインになる時、日本では「手塚祭り」になるだろうと想像している。パロディ、続編、リメイクと、手塚作品の二次的著作物による大きな手塚ブームがやってくるのではないかと。
もちろん、田中圭一氏などの手塚作品のパロディは今でも人気だし、それを許容する著作権者の度量も素晴らしいと思っているが、ある種の配慮が必要なくなった時、どんな自由な創作文化が花開くことか...
http://twitpic.com/cowdza
いや、こういうのばかりじゃなくてw

■我が国特有の二次的著作物の文化
シンポジウムでも指摘されていたが、非親告罪になると、コミケがいつでも起訴・処罰可能となるので、表現の幅は大きく狭まるだろう。萎縮効果だ。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1304/17/news060.html
しかし、他国には我が国のコミケのような規模の、二次的著作物が扱われる市場も文化も存在しない。TPP交渉において、我が国特有の文化的事情というものを、単なる経済問題ではないのだと主張してもらわなければならない。俳句の季語だって、最初に考えた人が権利を主張していたら、他人が使えず、季語として定着しなかっただろうとも指摘されていたが、クールジャパンを支える創作活動は、二次的著作物に寛容な文化がその裾野を支えている。

正式な許諾はないけれどグレーゾーンを著作者が黙認するという、著作者による著作物のコントロールを国が奪い、勝手に逮捕するというのは、本当に著作者が望むことなのか。二次的著作物を黙認する「黙認マーク」を提唱した赤松氏は、8月からの漫画の新連載で早速「黙認マーク」を使いたいそうで、クリエイティブコモンズなり文化庁なりのお墨付きが欲しいと発言していた。今まで「あ・うんの呼吸」で機能していた文化の土壌を守るのに、非親告罪化が問題になるのは日本くらいというのは、TPP交渉において非常に厳しいところだ。

■70年という期間を想像してみる
今から70年前といえば、まだ第二次世界大戦も終わっていない。もちろん、現行法でパブリックドメインになっている作品は、保護期間が70年に延長されたからと権利は復活しない。しかし、著作者死後70年の保護期間に延長すべきという考え方は、例えば戦前のような昔に亡くなった人の著作物ですら、まだパブリックドメインにするなと言っているわけだ。仮に、戦前戦後のような過去の混乱期に、日本人が何を考え、どう表現していたか、商業的価値は低そうだが、我が国の社会・文化・風俗を知るうえでは重要なオーファン・ワークスがあったとして、それを活用しようとすると逮捕されるかもしれない...そんな社会にしようというのが、著作者死後70年への保護期間延長と、非親告罪化だ。もっと言うなら、今から70年後の未来の日本人にとって、東日本大震災や原発問題についての現在の日本人の活発な議論は、教訓として重要な遺産だろう。著作権を強めたり絶対視すると、彼らに我々の経験を承継することが困難になる。

もちろん既に「国立国会図書館東日本大震災アーカイブ」は、複数の震災関連アーカイブを横断検索できる。
http://kn.ndl.go.jp/
ここで、「そこ、つっこみ処ですから」と検索すれば、ハーバードのエドウィン・O・ライシャワー日本研究所が構築している「2011年東日本大震災デジタルアーカイブ」に複製された、
http://jdarchive.org/ja/home
うちのブログからのエントリーがいくつか出てくる。
自分としては、アーカイブの一部として複製されたことに何の異議もないし、そもそもクリエイティブコモンズライセンスとして許諾の表示をしているので問題ない。

しかし、フェアユースが認められない我が国(日本版フェアユースが骨抜きにされたことはご存知の通り)では、こういったアーカイブ構築にも必ず著作権処理が壁となってきた。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1112/28/news053_2.html
フェアユースが認められるアメリカから、70年への延長と非親告罪化を求められて、フェアユースを否定したまま我が国がこれを受け入れるという最悪の事態だけは、絶対に避けなければならない。TPP交渉に当たり、我が国の著作権分野交渉担当者がどこまで著作権問題に精通しているか、非常に心配だ。

■相続問題
そもそも、法人著作になるような映画ならともかく、個人が著作者な大半の著作物について、相続の問題を無視して死後の著作権は議論できない。

著作権の相続問題は、100年も昔から裁判のネタだ。
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/das/jsp/ja/ContentViewM.jsp?METAID=00843849&TYPE=IMAGE_FILE&POS=1

著作者が死ぬということは、それを相続する者が著作権を得るだけでなく、当然に相続税が発生する。では、保護期間を延長するのは当然という人は、不労所得の恩恵を受ける遺族等が相続税もその分多く払うべきだと、当然に考えているのだろうか?

国税庁の財産評価基本通達、第7章「無体財産権」第4節「著作権、出版権及び著作隣接権」には、以下のように規定している。
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka/07/01.htm#a-148

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(著作権の評価)
148 著作権の価額は、著作者の別に一括して次の算式によって計算した金額によって評価する。ただし、個々の著作物に係る著作権について評価する場合には、その著作権ごとに次の算式によって計算した金額によって評価する。(昭47直資3-16・平11課評2-12外改正)
 年平均印税収入の額×0.5×評価倍率
 上の算式中の「年平均印税収入の額」等は、次による。
(1) 年平均印税収入の額
 課税時期の属する年の前年以前3年間の印税収入の額の年平均額とする。ただし、個々の著作物に係る著作権について評価する場合には、その著作物に係る課税時期の属する年の前年以前3年間の印税収入の額の年平均額とする。
(2) 評価倍率
 課税時期後における各年の印税収入の額が「年平均印税収入の額」であるものとして、著作物に関し精通している者の意見等を基として推算したその印税収入期間に応ずる基準年利率による複利年金現価率とする。
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つまり、どんな人気の時に死ぬかと、謎の評価倍率によって、著作権の相続税は定まる。
が、正直、この計算はよく分からない(苦笑)

人気絶頂で死ぬと、相続税が大変なことになるのだろう。
逆に、死ぬまで世間に評価されないと楽だ。
死後65年くらいでリバイバルブームが来ると、保護期間70年の世界では、著作者の生前の苦労を何も知らない孫やひ孫の世代辺りの相続人が、大儲けできるかもしれない。

もちろん、著作権保護期間延長が、相続税の計算に直接影響を与えるものではないだろうが、延長することに価値があるという主張が認められるなら、相続税にも反映されなければおかしい。
「著作物に関し精通している者の意見」を基に推算される、未発生の将来の印税収入期間を前提に相続税が算定されるなら、いっそのこと「印税収入期間」=「著作権保護期間」とすべきだ。ここをダブルスタンダードにする必要はない。

つまり、死後70年保護されるべきというなら、謎の「著作物に関し精通している者の意見」に関係なく、印税収入期間も70年として、相続税を算定すべきだろう。もちろん、相続人の立場からすれば、バカ言うなと思うだろう。未発生で確実に得られるかどうかも分からない不労所得を前提に、相続税なんぞ払えるかと。しかし、相続税で計算していない期間まで、死後のブームで相続人が大きな不労所得を得られることがあるというのは、第三者からすれば不公平な税制ということになる。

逆に言えば、我が国が保護期間を70年にしてこなかったのは、「著作物に関し精通している者」の公の議論の結果であり、相続税は「著作物に関し精通している者の意見」を基に算定するというなら、著作権保護期間を延長しないという公の議論の結果も尊重されるべきだ。

こういう話をすると今度は、著作権保護期間は、金の問題ではないのだとかいう声が聞こえてきそうだ。著作者人格権として重要なんだとか。

なら、いずれにしても、経済連携協定たるTPPで、経済問題として交渉すべきトピックではない。少なくとも、TPP交渉における他の経済分野を守るためのバーターとして、著作権分野を明け渡すような愚行だけはしてはいけない。

■意見表示
以上のように、この問題については色々と言いたいところだけど、TPP政府対策本部は、現時点でTPPはパブリックコメントの対象ではないと断言し、7月17日17時締め切りで、団体等からの意見提出を受け付けている。
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/tppinfo.html#setsumeikai
6月26日の日本農業新聞には、「意見は業界団体以外の個人などからも受け付ける。ただ、個人などの意見については寄せられる意見の数や内容によって、どう扱うか調整する予定。」とも掲載されたそうなので、個人の意見がどう扱われるかは分からないが、全く無視されるわけではないらしい。もう交渉は間に合わないからと、我が国の文化の土壌を政府がアメリカに明け渡すのを傍観せずに、問題意識を持った人は、個人でも、団体でも、積極的に意見をTPP政府対策本部へ提出すべきだろう。

ちなみに自分は、内閣府の国政モニターなので、この問題を6月分の提案とした。例によって400字に収めなければならないので、色々と省略せざるを得なかったが、できる抵抗はしておきたい。
http://monitor.gov-online.go.jp/report/kokusei201306/detail.php?id=37005
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TPPで著作権保護期間延長と非親告罪化を要求されますが、これらは長年の国内議論の結果、社会的文化的に多大な弊害があるので法制化が回避されてきた問題です。大半の著作物は、著作者死後50年を待たずに商業価値を喪失するため、70年では、文化的価値はあるのにパブリックドメインでないがために社会から存在すら忘れ去られます。オーファン・ワークス増加も問題で、既に70年の国々でも短縮議論が始まっております。また非親告罪化は、クールジャパンを根底から支える二次創作を主体としたコミケを崩壊させますが、これは日本特有の文化的背景であるため、TPP交渉過程で我が国が特に主張し抵抗する必要があります。多くの創作活動は、他人の作品を真似るところから始まるので、著作者の意図と関係なく罰せられては日本のコンテンツ文化が衰退します。間違っても、何かをTPP例外とするために、著作権分野をバーターで明け渡さないでください。
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このページは、ranpouが2013年7月 4日 09:00に書いたブログ記事です。

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