2011年10月アーカイブ

トルコ地震に対する各国からの救援隊を、トルコ政府が断っている。
この件に対し、ネット上にはいい加減な言説が出回っている。

トルコが親日国家だから支援しろとか、東日本大震災後の支援への恩返しもすべきとの思いが強い人やらが、日本の支援が断られたことを曲解している書き込みも目にする。

そこで、少しおさらいしよう。

まず今、現在進行形で、トルコ軍は震源地から百キロチョイのところで、絶賛戦闘中である。相手は、クルディスタン労働者党(PKK)だ。

震源から百キロくらいのところに、Hakkari県てのがあって、その先はイラク国境で、震源からイラク国境までは130キロくらいな位置。

つい先週、こういうニュースが流れた。
http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPJAPAN-23724920111020
「イラクとの国境に接するトルコ南東部ハッカリ県で、トルコからの独立を目指すクルド人労働者党(PKK)による攻撃が相次ぎ、19日までにトルコ軍兵士24人が死亡した。」

で、直後からトルコ軍は、Hakkari県の山岳地帯とか、隣のイラク領内にまで越境攻撃して、PKKを100人オーダーで殺している最中。
http://www.todayszaman.com/news-260772-turkey-kills-almost-100-terrorists-in-offensives-led-by-top-commanders.html
http://www.todayszaman.com/news-260874-turkey-moves-into-iraq-near-pkk-camp.html

イラク北部への越境攻撃なんて国際法違反して、イラクともめないのか?と思う人もいるだろうが、これは別に今回が初めてではない。
http://www.global-news.net/ency/naito/daily/071226/01.html
http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2354542/2666257
PKKは、アメリカ様がテロ組織と認めているし、クルド人だし、イラク政府も了承済みという...

イラク北部のクルドがよく分からない人でも、フセイン時代に散々な迫害に遭った人々だと言えば、思い出すのではないか?

そうそう、化学兵器で殺されまくった人たち。

実は、クルド人が最も多く住んでいるのがトルコであり、トルコも建国の時から、クルド人の迫害という問題を長らく抱えてきた。EUに加盟しようとしたら、クルド人迫害を先に止めろと言われ、やっと徐々に状況が好転してきたとはいえ、そういう時代背景を忘れてPKKを単純にテロ組織と思ってはいけない。まあ今では、国際的にも立派なテロ組織認定されてるので、殺しても大丈夫ってことにされてるけど、ハリウッド映画じゃないので、勧善懲悪なお話なんて存在しない。(別に、PKKを擁護しているわけではないので、誤解しないように。)

これは、日本人にとっても他人事じゃなくて、トルコがこの辺で戦闘すると、日本にやってくるクルド人難民も増える可能性が高まる。でも、日本政府はトルコを親日国家と位置付けているので、トルコが人権侵害していないという建て前から、クルド人を難民とは認めないという差別的な対応を続けていることも、周知の事実。過去にもブログで取り上げた。
http://maruko.to/2009/03/post-10.html

まあ、そんなことやってる最中に、今回の地震が起こったわけだ。
あんな、クルド人の多い地域で...

http://www.47news.jp/CN/201110/CN2011102501000896.html
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/mideast/532930/
ということで各メディアでは、各国の救援隊を断るトルコ政府の不可解な対応について、クルド人差別とか、もしくは逆に、クルド人に政府に助けられたと良い印象を与えようとしているとか、諸説出ている。何故か、隣の県で絶賛戦闘中なことを理由に上げる記事は、自分は目にしていない。戦闘終了して撤退したという確実なニュースもない。
-->追記
http://www.reuters.com/article/2011/10/25/us-turkey-iraq-pkk-idUSTRE79O2WZ20111025
まだまだ越境攻撃エスカレート中ですね。
<--

そんな状況なので、震源のヴァン県は戦地ではないとはいえ、
http://www.hidakashimpo.co.jp/news/2011/10/post-747.html
こんな思い入れで、簡単に他国の公的な医療チームが受け入れられるか疑問。

http://amda.or.jp/articlelist/index.php?page=article&storyid=191
AMDAのように、現地のNGOと連携できる実績のあるNGOでなければ、現地入りは難しいのではないだろうか。
http://www.aarjapan.gr.jp/about/news/2011/1024_790.html
難民を助ける会というのも、名乗り出ている。
http://www.jrc.or.jp/foreignrescue/l3/Vcms3_00002578.html
日本赤十字は、トルコ赤新月社の活動を書いてるだけで、今度の対応は不明。

では、現地入りは難しくてもトルコを支援したい人は、やはり金銭的支援がメインということになろう。が、ここで疑問なのが、トルコ大使館を通じての義援金送付だ。果たしてトルコ政府は、クルド人被災者らに義援金を公平に分配してくれるのだろうか?

正直、トルコ政府には本当に申し訳ないのだけど、差別がないのか、個人的には不安が残る。なんせ、今の政府対応だって差別なのではないかと、報道されている最中なわけだ。

いや、ダメだと言っているわけではない。今回の地震で、差別してるという証拠があるわけでもないしね。きっと、ちゃんとやってくれるとは思いたい。信じる人は、以下へ。
http://tokyo.be.mfa.gov.tr/ShowAnnouncement.aspx?ID=134011


しかし、信じる信じないは別にしても、日本人は東日本大震災で学んだはずだ。義援金の分配は、なかなか難しく、時間のかかる話だと。トルコ政府の対応を信用するにしても、今にも凍え死にそうな被災者には、政府経由の義援金など先の先の話でしかない。

ならば、現地入りするNGOに直接寄付する方が、遥かに効果的ではないか?

少なくとも、
http://www.youtube.com/watch?v=LscQ1QAS3hQ
この動画の説明にあるような美談で支援するのではなく、もう少し具体的に、被災しているクルド人に届く支援を考えた方が良いと、個人的には思う。

エルトゥールル号とか邦人救出とか、そりゃいい話だけど、それがなかったら支援しないわけじゃないでしょ?

もちろん、大使館経由で義援金を渡せば、トルコ"政府"とは親密度アップできるだろうけどね...


ところで、これは余り知られていないだろうが、トルコ政府から迫害を受けたと主張して、日本で難民申請しているクルド人らも、東日本大震災の後、ボランティアとして東北で支援活動をしてくれていた。彼等と一緒に、瓦礫撤去した自分が言うのだから、嘘ではない。

日本人ボランティアが諦めるような、巨大な瓦礫や丸太も、「オスマン帝国ではこうやって運んだんだよ」と、見事に運び出してくれる頼もしい人々だった。彼等が持参した手作りのお菓子は、「こんな外国のお菓子食べたことないわぁ(笑)」と、被災者の方にも大好評だった。

彼等難民申請中のクルド人は、日本政府が、いずれ自らの難民申請を却下するであろうことは、うすうす気付いていた。でも、東北の状況を見て、手を貸してくれた。恐らく、彼等のような日本にいるクルド人は、今回の地震のニュースに祈る思いで接していることだろう。

日本人が、トルコへの支援を通じて、もう少し日本にいるクルド人の問題を知る機会になると良いのだけど。

-->追記10/27
http://mainichi.jp/select/today/news/20111027k0000e030011000c.html
AMDAの活躍が伝えられてますね。

相変わらず、他国の救援隊は入ってないですが、今のところ各メディアは、もうそこには触れない形で、物資と一部のNGOが入ったことをもって、「トルコが世界からの支援を受け入れた」という部分を強調する報道で、丸くおさめるようですね。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20111027/k10013536051000.html

ロシア系のメディアなどは、人か物かにも触れずに、世界に支援要請したという風にぼかして書いてますね。日付とか間違ってるイイカゲンな記事ですが、分かりやすい対応ですね(苦笑)
http://japanese.ruvr.ru/2011/10/26/59358108.html

トルコは、よっぽど人を入れたくないのでしょうが、国としては内政干渉するわけにもいきませんから、一応これで物資だけでも「支援した」という形式を満たし各国は満足し、外交的にトルコ政府の面子は保たれたのでしょう。
http://mainichi.jp/select/world/europe/news/20111027k0000m030065000c.html
助けを待つ現場からすれば、たまらない話でしょうが。
<--
-->追記10/31
難民を助ける会の現地での活動報告が出ました。
http://www.aarjapan.gr.jp/activity/report/2011/1031_795.html
<--
-->追記11/12
「トルコ:宮崎淳さんの訃報」
http://www.aarjapan.gr.jp/activity/report/2011/1110_812.html
「11月10日のトルコ地震での当会職員の状況に関するお知らせ(11日21時半現在)」
http://www.aarjapan.gr.jp/about/news/2011/1111_814.html
http://aarjapan.blogspot.com/2011/11/turkey-passing-of-mr-atsushi-miyazaki.html
「トルコ語でのお悔やみのツイート」
http://togetter.com/li/212501

http://www.smh.com.au/world/miyuki-daughter-of-disaster-survives-another-horror-20111111-1nb37.html
最後のところ
>Angry about a shortage of aid, more than 200 people rioted amid the debris. Police fired tear gas at protesters.
>"Police and residents are fighting now. They feel desperate, angry and abandoned," said a witness, Neman Kara, 35.
援助不足に抗議する被災者と、警察が催涙ガス使って戦ってる被災地...やりきれない。

まだまだ、非政府組織だからこそ可能な支援があるのだろう。
http://www.aarjapan.gr.jp/activity/report/2011/1109_805.html
昨日予定されていた活動報告会は、中止になったそうだけど、今後トルコでの活動はどうするのだろう?
<--

■蛇足
本文と関係ありませんが、またしばらくブログの更新が滞る予定です。お勉強に時間を...

Fly to Japan

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「外国人1万人、旅費無料で日本招待...観光庁方針」(2011年10月10日03時00分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20111009-OYT1T00814.htm
「観光庁は、東日本大震災後に激減している外国人観光客の回復を狙い、2012年度に全世界から、旅費無料で1万人の一般観光客を日本に招待する方針を固めた。」

ふむふむ。

「事業費として、観光庁は12年度予算の概算要求に11億円を盛り込んだ。」

げ!?と思った。

この記事に関するmixi日記だの、Twitter上の反応は、案の定だった。無駄使いだのバラマキだのと。

正直、この記事は酷い。まるで、11億単純に増やしたとしか読めない。他の情報を削って、読者に誤解を生じさせる、クソな記事だと思う。こういう場合は、業界紙に限る。
週刊観光経済新聞(第2628号《2011年10月8日(土)発行》)
http://www.kankoukeizai-shinbun.co.jp/backnumber/11/backnumber/kanko_gyosei.html#01
「12年度の概算要求は、政策的経費を今年度当初予算比で1割削減することが要件で厳しい編成となった。ただ、成長分野や地域活性化分野に充てる重点化枠は、削減額の1.5倍を上限に要求できる措置がとられた。
 観光庁の概算要求は、通常枠と重点化枠を合わせた要求額が今年度当初予算比5%増の106億5700万円。このほかに別枠として要求できる震災の復旧・復興枠で3億3400万円を計上。
 インバウンド関係の予算にあたる「訪日外国人3千万人プログラム」の要求額は2%増の88億900万円。内訳は、訪日旅行促進(ビジット・ジャパン)事業が16%減の50億8800万円重点化枠を活用したフライ・トゥ・ジャパン事業に11億8600万円、日中国交正常化40周年記念青少年招請事業に1億円など。」

つまり、通常枠(ビジット・ジャパン)と重点化枠(フライ・トゥ・ジャパン)とで、予算にメリハリをつけたというところだ。
つっこむならここだろう?

「それは、単なる予算の付け替えじゃねーの?」と。

つまり、このニュースに価値を持たせるには、本当にフライ・トゥ・ジャパン事業への重点化は、既存のビジット・ジャパン事業よりも、インバウンド(海外から日本へ来る観光客)回復の手段として適切なのか?という、議論喚起の切っ掛けになるような情報を読者に与えるべきなわけだ。それが欠けるなら、単なる政権批判の材料にしかならない。

旅行業界の現状に興味を持っている人間としては、これは単なる付け替えではなく、かなり面白い試みだと評価できるのではないかなと思っているが、是非とも業界関係者の感想も聞いてみたいところだ。

現在、震災で減少したインバウンドの回復は急務であり、観光地を抱える地方自治体は苦労している。
「京都府、外国人団体旅行に助成金 10月末まで受付」
http://www.travelnews.co.jp/news/inbaund/1109060948.html

個人的にも、観光地の外国人観光客の減少は実感しているが、出国日本人ばかり増加しているのは、なんとも皮肉だ。
http://www.travelnews.co.jp/news/inbaund/1109161607.html

観光立国を目指す日本としては、外国人が日本に金を落としてくれなければ意味がない。

この手の助成金というのは、実は各観光地で多種多様なものがあるのだけど、普通は旅行会社に対するものだったり、特定の旅行商品(パッケージツアーとか)から割引きするような形式をとっている。ところが、今回のフライ・トゥ・ジャパン事業は、一般観光客を招待するというダイレクトな手法である点が面白い。しかも、ブロガーに期待している。

「世界からの震災復興への支援に感謝を伝え、震災で傷ついた訪日観光のイメージ回復を促す。希望者を募集し1万人に往復航空券を提供する。ブログを開設するなどクチコミの発信力が高い応募者を重点的に招待。「自国民の発信する情報への信頼度が高いことから、クチコミで早期に需要を回復させる」(国際交流推進課)。」

もちろん、ブロガーに宣伝してもらうといっても、招待すること自体も感謝の一環として宣伝するのだから、ステルスマーケティングではないだろう。(まあ、同じことを隣の国がやれば、ステルスマーケティングだと騒ぐオッチョコチョイはいるだろうが(苦笑))

先日の旅博でのJATAのシンポジウムでは、こんな議論があったそうだ。
http://www.travelnews.co.jp/news/inbaund/1110031600.html

FIT(Free Individual Travel=個人手配旅行)は回復しつつあるが、団体旅行やMICEが遅れていると。

団体旅行やMICEの誘致は、ビジット・ジャパン事業の対象なわけで、これの回復が遅れているのに、フライ・トゥ・ジャパンでFITを対象に予算の重点化策をとったというのは、ちょっと面白いと思う。FITな1万人のブロガー等を招待して、口コミで各国に宣伝してもらうことが、最終的には団体旅行やMICE誘致につながると考えているのかもしれない。

まあ、ネットの口コミを宣伝に使うというのは、これが私企業であれば当たり前っちゃー当たり前な話だけど、それを観光庁がやるというのは画期的なわけだ(笑)
(俺ってカッコイイでしょ?的な自称クール・ジャパンの経産省も、少しはこういう手法を身に付けるべきだ(苦笑))

シンポジウムでも指摘されてるが、旧態依然としてインバウンド対策が後手後手な国内の旅行業界の現実もあり、業界への直接的なバラマキ支援で効果を期待するより、遥かに合理的な発想に思える。(なお、往復航空券を提供するということは、日本の航空会社が使われるような配慮は必要だろうが、いずれにしても直接金銭を受け取るのは航空会社であり、招待される外国人へのバラマキであるかの批判は完全に間違っている。)

フライ・トゥ・ジャパン事業が成立した暁には、是非とも、最終的な効果をキッチリと評価して欲しい。そして、各メディアは、ちゃんと結果まで報道して欲しい。無理かねぇ...

■追記10/14
観光庁は、3ヵ月単位で訪日外国人消費動向調査というのを発表しており、これが結構面白い。現在、6月分まで公開されている。
http://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/syouhityousa.html

・訪日外国人の旅行中支出額(日本までの往復運賃やパッケージツアー代を除く)の平均が、11万円を超えている
・FITは、ツアー客より旅行中支出額の平均がほぼ倍も高く、13万円を超えている
・国籍別では、ロシア人やフランス人の旅行中支出額が高く、特にロシア人は20万円をよく超えている(彼等は、滞在日数が2・3週間というのも珍しくなく、1週間未満が大半のツアー客とは、消費行動が異なる)

さて、Fly to Japan事業は、その仕組みから恐らくFITが対象となるのだろう。すると、長期滞在で旅行中支出が高額な人々が招待されるのではないか。(というか、そういうプランこそ選ばれるべきだ。)

1万人に対する予算が11億円ということは、1人平均は11万円のコストをかけて招待するわけだが、訪日外国人全体の平均でも彼らは国内で純粋に11万円以お金を落としていく。そこから、旅行中支出の更に高額なFITを招待するということは...

最終的な口コミ効果を別にしても、面白い事業じゃないか?

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