保育士の平均賃金のニュースはオカシイ

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『保育士不足の原因は「給料が低いから」? 待機児童問題の解決策はあるのか』
http://www.huffingtonpost.jp/2013/10/20/nursery-staff_n_4133460.html
『保育士希望せず 理由の半数は「賃金」』
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20131021/t10015421291000.html
「保育士の平均賃金は214万2000円」というのは、かなりミスリードを誘ってやしないか。これは、どこの保育士の平均だろうか。私立限定?
---------->追記:10/22
NHKに指摘したところ、事実関係が誤っており、上記リンク先の原稿を訂正した旨の連絡がありました。訂正ポイントは
・保育士の平均賃金を「214万2000円」から「21万4000円余り」へ。
・全職種の平均を下回っている額を「100万円余り」から「10万円余り」へ。
・補助金の支給開始年度を「昨年度」から「今年度」へ。

しかし、まだ間違っていると思います。
NHKは、「平均賃金」の意味をまだ誤解しているのでしょう。
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---------->追記:10/23
NHKが訂正した関連で、それを引用していたハフィントンポストにも誤りを指摘していましたが、そちらも記事を更新したと連絡がありました。なお、それによると、NHKはテレビで放送しているニュースでも訂正しお詫びしているようだとのことで、私は見ていませんが、迅速な訂正の姿勢は良いことだと思います。その際、NHK NEWS WEBの訂正記事にはない、「月額で」という説明も加えているようです。
「平均賃金の月額」と言っているなら、それもあまり一般的な言葉遣いではないように思えます。これでは年収を算出することもできません。賃金が保育士を希望しない理由の半数だというニュースなので、ここが一番重要な情報のはずで、もう少し視聴者に分かりやすい数字を用いた方が良かったでしょう。

なお、このブログの以降の部分は、ニュースが訂正される前に書いたものですが、論旨はニュースの着眼点そのものへのツッコミですから、変更の必要はないと考え、そのままとします。
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というのも、一昨年同じ問題が報道された時、厚生労働省の賃金構造基本統計調査では、公立保育所勤務者を含めた保育士全体の平均年収は2010年度で約325万円とニュースになっていたからだ。たった数年で、平均が100万円以上低下したなら、それ自体が驚きのニュースだ。安倍政権になって、算出方法が変わったのだろうか。

これを見る限り
http://nensyu-labo.com/sikaku_hoikusi.htm
昨年だって、315万円だったわけだが...

保育士の賃金を改善する補助金制度というのは、同じ一昨年のニュースで2013年度から導入を目指すとされていたものが実施されているのだろうが、当時のニュースでは、特に私立の問題であることもきちっと強調されていた。今回そういう情報が削げ落ちているように見えるのが不思議だ。確かに、公立でも非正規雇用は増えているそうだが、今年は急に公立私立全ての平均で100万円以上低下してしまったというなら、物凄い話だ。もしかして、NHKは何か間違えてたりしないのか?

と、よくよく見れば、「平均賃金は214万2000円」というのは、表現としておかしい。平均賃金というのは労働法上の概念で、暦日1日あたりの賃金であって、平均年収とは全然違う。
詳しくはウィキペディアをどうぞ。 → 平均賃金

平均賃金が214万円もあったら、平均年収は大変なことになる。
数字も、本当は314万円なところを、214万円と誰かが書き間違えてニュースにしたということはないのか?

平均年収314万2000円というなら、昨年の平均からしても納得のできる金額だ。


また、ハフィントンポストは論点がおかしい。保育士の賃金は、平均したら安いという話になるだろうが、ここには公立と私立、正規と非正規、地方と都市部、更に世代間格差という、どこの業界にもある不公平問題がある。それをまとめて平均してしまっては、問題点が見えなくなってしまう。

待機児童問題は主に都市部の問題だが、2003年に大規模調査をした学習院大学経済学部教授の鈴木亘氏が、東京23区の公立保育所の常勤保育士の平均年収が800万円を超えていて、園長は1200万円近いという記事をForesightに書いて話題になったのが4年前。
http://www.fsight.jp/5210
反響が大きく、日経ビジネスオンラインにも詳しい記事を書かれた。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20091127/210740/

ここには、2000年から安く改められた福祉職俸給表に従って給与をもらっている若手の保育士と、それ以前の行政職俸給表で高給をもらっていた中高年の保育士の格差問題もあった。

23区の公立保育所の0歳児一人当たりにかかる保育費用が月額50万円前後かかっている(ほとんど税金)というのも話題になったが、そんなに税金が投入されてるのを知れば、子供を預けて働くのがバカに思えるお母さんが出てきて当然。

保育所に関する問題は単純ではなく、私立の非正規雇用の保育士が過酷な状況にあることは以前から指摘されている問題だが、それを待機児童問題全体に広げて根本原因のように論じるのは、無理がある。

非正規雇用の問題は非正規雇用の問題として、徹底的に論じる価値がある。しかし、待機児童問題は、解決に対してどういう勢力が既得権益を守ろうと抵抗しているかなど、もっと広い視点が必要なはずだ。

否、そこまで期待できないにしても、このタイミングで保育士の賃金問題を話題にするなら、今までの5年から10年へと、正規にせずに非正規雇用を続けられる期間を延長するように法改正するという安倍政権の方針が決まった直後なのだから、それが非正規低賃金で苦しんでいる保育士の現場に与える影響についてくらい、絡めて論じる記事があっても良いのではないか。全国一律に雇用の流動化を促進する政府方針が、逆に雇用が固定化しないことが問題視されている現場に与える影響についてとか。

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このページは、ranpouが2013年10月21日 16:28に書いたブログ記事です。

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