戦争証言アーカイブスの価値

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週刊ポストが「NHKの「人肉食った日本兵」表現に捏造疑惑」という記事を掲載した。
http://www.news-postseven.com/archives/20110905_30277.html

ニューギニアで飢えをしのぐため、日本兵が友軍同士で共食いした事実があったことは有名だが、これを扱った証言番組で、ネズミを食べた話を人肉を食べた証言になるように編集して捏造放送したのではないかというのが、週刊ポストの記事。

で、NHK嫌いな人たちが、ろくに自分で調べもせずにこの記事に釣られて、NHKが捏造したとする動画とか作ってネットにアップしてる。まあ、全然盛り上がってないけど。

週刊ポストが問題視した番組の動画は、NHKの戦争証言アーカイブスにアップされてるので、誰でも自由に見られるので確認してみた。
問題部分は、以下の動画の23:50からだ。
http://cgi2.nhk.or.jp/shogenarchives/bangumi/movie.cgi?das_id=D0001210027_00000

この内容は、確かに週刊ポストの記事通りの内容で、友軍の死体を食べる話の後に、一度編集が入ってから、「すごい、抵抗感とかもあったんじゃないですか?」という女性の問いかけがあって、生きるためにはしょうがないという話が続いている。

戦争証言アーカイブスでは、番組に関連した証言について、番組で使用されなかった部分も含めて、個人単位でインタビュー動画を公開しているが、週刊ポストの記者はこの証言動画を見て、番組でカットされた部分はネズミを食べた話だと思ったわけだ。

証言インタビューなんてものは、それこそ一人毎に何時間もあるだろうから、それを全て無編集で公開なんぞされては、見る方はたまらない。確かに、番組で取り上げなかった証言も聞きたいけれど、それでも無駄に長いのでは見る気が失せてしまう。なんせ、既に公開されてる証言動画だけで、もう500件を軽く超えている。証言を可能な限り公開することの意義は大きいだろうが、膨大な数の中に貴重な証言が埋もれてしまっては意味がない。だから、証言を歪曲しない範囲で、証言動画も編集されるべきであることは疑いないだろう。

しかし、週刊ポストは、証言動画も編集されていることを認識しながら、そこは軽く流し、こう書いたわけだ。

>アーカイブスを見る限り、一連の証言が「腹が減った兵士たちはネズミを生で食べて飢えをしのいだ」という内容であることは疑いの余地がない。

そして、証言動画に対する上記解釈を前提に、これと異なる編集がされた番組は捏造ではないかと論じた。もちろん、何の証拠もないもんだから、「NHKのドキュメンタリー番組に携わっていた元番組制作スタッフ」の発言という形で。

他人の発言を伝聞形式で紹介するなら、どんな証拠のない話でも許されると思ってるのだろうか?

更に、それでも心もとないのか、仮に番組が捏造じゃないなら、ネズミを食べた話に見える証言動画が捏造になると論じて、言い逃れも忘れていない(苦笑)

そんなに自信がないなら、記事にしなきゃいいのにと思うけどね。
それじゃ、ネットの掲示板とレベルが変わらんではないか。
それを信じて、更にネットに転載するマヌケが出るのだから、どうにもこうにも...


で、流石にNHKが反撃した。
現在、戦争証言アーカイブスのトップページに、「おことわり」という欄を設けて、週刊ポストへの抗議文を公開している。
http://www.nhk.or.jp/shogenarchives/

同時に、当該証言部分のノーカット版を、静かに公開した。
http://cgi2.nhk.or.jp/shogenarchives/shogen/movie.cgi?das_id=D0001100674_00000&seg_number=004

静かにというのは、ノーカット版を公開したこと自体について、NHKは特に告知していないからだ。週刊ポスト同様、証言者に配慮しつつ、自らの正当性を証明する最低限の手段を講じたのだろう。戦争証言プロジェクトのメールマガジン購読者に対しても、週刊ポストへの抗議文の公開の件だけ伝えられた。(自分はこのメールマガジンで知った。)

そして、当該動画の再生テキストの中に、「誤解が生じる可能性があると判断したため、ノーカットで公開します。」とだけ書かれている。お陰で、該当部分が分かった。

見たら分かるが、NHKの週刊ポストへの回答書に、嘘は全くなかった。
番組でカットされていた、証言と「すごい、抵抗感とかもあったんじゃないですか?」という女性の問いかけとの間も、人肉の食べ方の話だった。ネズミの話は、番組で使った証言より前の部分と、女性の問いかけに答えた証言の更に後の部分に出てくる。番組は、完全に証言に従った編集であったわけだ。

週刊ポストからすれば、当初編集されて公開されていたアーカイブスの証言動画が、「最も衝撃的で貴重な人肉食の話を割愛し、ネズミ食の話だけ残すような編集をしたというのも不自然な話だ。」と思って番組を捏造と思ったわけだが、衝撃的であるからこそ、公開に配慮があった可能性に、思いは至らなかったのだろうか。

週刊ポストのように、衝撃的なら記事にして良いとは、NHKは思ってないだけでしょ。

まあ、そもそも、証言動画のページから、クリック一つで番組の動画が見られるわけで、当初の証言動画でカットされていた部分がその番組でしっかり使われているのだから、両方ちゃんと見れば全てが伝わる。

おまけに、元々公開されてた証言動画だけでも、日本兵が友軍を撃ち殺して食べていた事が語られているわけで、殺してないけど死体は食べたという証言者の話より、十分に衝撃的な話が公開されていたわけだ。(まあ、そういう事実があったこと自体は有名なので、新事実でもなんでもないのだけど。)

もちろん、ネズミを食べた話も事実であって、捏造ではない。この方は、人肉を食べたこととネズミを食べたことをシームレスに語っており、両者に対し、最初は抵抗があったという話が掛かっているのだ。(ネズミと人肉が同等に語られていることは、ある意味衝撃かもしれない。)

このレベルを捏造と言い出したら、週刊ポストのこの記事はどういうレベルになるのかね?


まあ、ここまで書いて今更だけど、週刊ポストがどうだとか、NHKがどうだというのは、実はどうでも良いとも思っている。

重用なのは、この戦争証言アーカイブスの存在が、もっと知られるべきなんじゃないかということだ。この番組で取り上げられた連隊の方々の証言は、どれも貴重だ。辛い証言を、実名で番組にしたり公開することを承知してくれた方々の思いを、無駄にしてはいけない。日本人なら、見るべきだとも思う。

以前からそう思っていたのだけど、今回の記事をきっかけに、その思いを強くしたので、今回ブログで取り上げてみた。

もちろん、実名で証言して下さった方々に対し、これを責めるようなことがあってはならないし、週刊ポストの記事にもあったように、そっとしておいてあげるべきだ。週刊ポストは、とっとと謝罪しちゃいなよ。この問題が訴訟にでも発展したら、それこそ証言者に申し訳ない。

そうすれば、こんな記事がきっかけでも、戦争証言アーカイブスの存在が広く知られることになれば、意味があったと思う。

衝撃的な証言も沢山あるのだけど、それだけではない。面白いと言うと語弊があるけれど、興味深い話も埋もれている。暇な時間があれば、色々検索して見ることをオススメしたい。

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このページは、ranpouが2011年9月 8日 10:49に書いたブログ記事です。

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