2010年3月アーカイブ

少し先送りになった、東京都の非実在青少年についての条例改正案について、東京都小学校PTA協議会が、こんなことを書いてる。
http://ptatokyo.jugem.jp/?day=20100316
-->
報道によれば、昨年の児童ポルノ事件は全国で前年比約4割増の935件と
過去最多であり、小学生以下の被害者も約7割増の65人となるなどの
状況にあり、保護者の不安はこれまでになく高まっています。

<--

書いてあることのうち、上記部分だけが、唯一の客観的な事実かな。

-->
また、漫画やアニメであっても、幼い子どもが自分から性交を求め、
快楽を得ているかのようなもの、親子や姉弟・兄妹間の激しい性交が
愛情表現の一環であるかのように片付けられているものなど、
大人ですら良識のあるものなら目をふさぎたくなるようなものが、
何ら規制されることなく書店の店頭に置かれています。

<--

ここは、実際は現行の条例で規制されてるので、事実ではない。
というか、ゾーンニングもしない書店があるなら、そこに文句言った方が良い。


さて、PTAさんが書いてる、児童ポルノ事件の数字は、以下の警察庁の資料に書いてある。

http://www.npa.go.jp/safetylife/syonen/syonenhikou_h21.pdf

上記資料のP12(実際はP20)からの、「5 少年の犯罪被害」から以下より一部抜粋(一部余分な部分を短縮したりして表を修正)してみる。
少年の犯罪被害の推移_s.jpg

少年の性犯罪被害の推移_s.jpg

少年の刑法犯被害の推移_s.jpg

小学生の犯罪被害の推移_s.jpg

少年犯罪被害の推移_s.jpg

13歳未満の少年の犯罪被害の推移_s.jpg

つくづく思う。日本の青少年は、犯罪被害が年々減っていて、素晴らしいね。こんな国、他にあるのかな。

あれ?すると、PTAが言ってる数字は?

ということで、以下の表の赤で囲った部分。

児童買春・児童ポルノ禁止法違反の送致状況_s.jpg

なななんですと!
児童ポルノだけ平成17年(2005年)から激増している!

などと驚いてはいけない。以下のサイトのグラフ参照。

http://toriaezumitekitayo.blog88.fc2.com/blog-entry-35.html

児童買春・児童ポルノ禁止法の2004年改正で、処罰範囲が拡大されたから、それまで処罰されなかった行為が、2005年から処罰されるようになっただけ。社会状況が悪化したわけではない。

そういう意味では、1999年の桶川ストーカー事件での警察怠慢後の、2000年の通達以後から、認知件数が激増したのと似たようなもんだ。


つまり、2005年からの児童ポルノ事件数の激増は、それまで処罰されなかった行為が、とても有効に処罰できるようになったことを意味しており、改正された法(現行法)が、とても有効に機能している何よりの証拠に過ぎない。

PTAさんは、もしかするとTVに毒されていて、センセーショナルに事件を取り上げる番組を見て、犯罪が増加しているとか、物凄い大きな事実誤認をしているかもしれないけれど、自分の印象としては、5年前から社会が急激に悪化したなどとは、実感したことがない。

犯罪社会学を勉強したり、ちゃんと犯罪白書を見れば、我が国の悪質な犯罪は、記録史上最低と言えるほど減少しており、かつてない程安全な社会になっていることは、客観的に明白なので、少年の犯罪被害が減少するのも当然だろう。

それでもPTAさんは、もしかしたら「そ、それでも、小学生以下の被害者が昨年比約7割増の65人なんて異常だ!今、過去最高に社会が悪化しているんだ!」とかおっしゃいたいかもしれない。

ははは...

児童ポルノ事件被害児童構成_s.jpg

小学生に限定するとだね、今から10年前の方が被害者多かったから、むしろ減ってますな。

PTAさんの言い分は、客観的な資料や証拠を読めない、子供のような発想ですね。

でもまあ、同じ警察庁の資料に基づくのに、こんな過激なグラフを見せられたり
http://www.jiji.com/jc/v?p=ve_soc_tyosa-jikenchildren20100218j-01-w330
こんな恣意的に2004年以前を削ったグラフを見せられたりしたら、
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20100218k0000e040060000c.html
マスコミの思う壺に、犯罪が激増してると、誤解しちゃうのも仕方ないか。

PTAさんは、情報リテラシーに欠けるようなので、お子さんの手本となるためにも、親御さんのためのお勉強の場所を作るとよろしいですよ。


さて、この手の警察資料では、突発的な数値の変動があった場合で、社会に大きな変化がない場合、警察が特定の犯罪の検挙に重点を置いたり、法律が変わったりするパターンであると解するのが、犯罪社会学的には順当なところだ。だけど、特に要因もなく、なだらかに変化するカーブは、現実の犯罪発生数の変化を反映していると解する信憑性が高いだろう。

すると、性犯罪含め、少年の被害は減少傾向と見るべきだ。それが、社会的傾向とすると、これに逆行する児童ポルノの突出が、尚更怪しい。

児童買春すら増えたと言うほどでなく、むしろ減少傾向で、特に出会い系サイト経由の児童買春は大きく減っている。これは、各インターネットや携帯事業者等の自主的な対策の効果もあるだろう。

なのに、児童ポルノの増加分は、ほとんどネット利用のケースの増加分そのものだ。

しかも、増減率99.6%って、いきなり倍に増えてるじゃんか。
平成20年と21年で、ネット上に児童ポルノが倍に氾濫した?

常識ある大人なら、1年で児童ポルノ事件が倍に増えたなどと言われれば、社会不安に陥る前に、その数字を疑うだろう。実際、日常的にネットを利用していれば、犯罪が倍に増加したなんて印象は受けないのだから。

あ、でも、ちょっと思い出すと、昨年は児童ポルノ関連で、それまではあんまり聞いたことなかったような事件が話題になっていた。

例えば、海外の児童ポルノサイトのアドレスを掲示板に掲載した人物と、それが掲載された掲示板を開設していた大学生が逮捕された。
ニュースを見た時、リンクしただけとか、リンクが掲載されただけの掲示板開設者が逮捕されるとか、驚いたよ。
http://www.yomiuri.co.jp/net/security/s-news/20090708-OYT8T00330.htm
法や社会状況と関係なく、捜査機関側の判断基準が厳しくなったのかもしれない。

あと、母親が2歳の自分の娘の裸の写真を撮って逮捕されたのに続いて、母親が我が子の写真を売りまくる事件が続いた。正に昨年から急増した事件だ。
http://www.so-net.ne.jp/security/news/library/2073.html

金のために写真を売るってのは、単純に考えれば経済状況が悪化した影響も考慮すべきだろ。去年と一昨年で大きく変わったのは、つまり、リーマン・ショックの影響か?

昔は子供そのものを売り飛ばしてたのに比べれば、マシ?なわけない(苦笑)

あと、見た目が未成年に見える成人女性を撮影した猥褻ビデオで、擬似児童ポルノで逮捕とか話題になってたな。え?流石にこれは児童ポルノにはカウントされてないか(笑)


まあ、どっちにしても、今までの児童ポルノって、全部実在の被害の話だから、非実在青少年を規制すべきかどうかとは、全然関係ない話にしか聞こえない。PTAさんの書いてることは、論理的関連性がない無関係の事実を根拠に、アニメや漫画を規制しようっていうのだから、さっぱり分からん。実在児童のポルノの規制と、非実在青少年規制を関連付けるには、何かもう一つ客観的な根拠が必要であり、それがなければ論理の飛躍に過ぎない

でも、他に示されてる根拠って

-->
また、こうした漫画等の蔓延によって、青少年の判断能力や常識、価値観が
幼いときから歪められてしまう危機感を強く感じています。

<--

これだけ。
単に、抽象的な危険を想像しているだけではないか。

すると、やはり危険が具体化していないという意味で、表現の自由が失われる危険を訴える条例改正案反対派と、何も変わらない。

共に抽象的な危険を想定して対立するなら、まだ、憲法に根拠がある条例改正案反対派の方が、正当性があると感じる。

特に気持ち悪いと感じた文章はここだ。
-->
子どもを守るため、子どもが健やかに育つために、児童ポルノを根絶すること、
子どもを性的対象にする図書が青少年の目に触れないようにすること。
たったこれだけの願いであるにもかかわらず、一部には、えん罪や
表現の自由の規制を理由に、この条例改正案に反対している人がいると
聞きます。

<--

実在児童のポルノを根絶することに反対してる条例改正案反対派の意見なんて、聞いたことないぞ?

で、青少年の目に触れないようにするのは、ゾーニングでOKな話だ。
これも、反対している条例改正案反対派なんて、聞いたことない。

しかも、最後は伝聞だしw
誰か周囲に、妄想や嘘を吹き込む人々が集まってるのだろうか。

妄想でないなら、対立勢力を貶めようとする、意図的な印象操作ということになろう。

キモイですよ!


そもそも、今の条例だってちゃんと機能している。
児童買春・児童ポルノ禁止法だって、昨年国会で不必要に改悪されそうになったけど、今だってちゃんと機能してる。だからこそ、逮捕者が出るのだ。
新たに非実在青少年を規制したって、実在児童ポルノを根絶することとはリンクしないということが、どうして理解できないのだろ。

どこか、類似の規制を行っている国で、児童ポルノ根絶できた国があったら、是非教えて欲しい。

別に、児童ポルノを好むような奴を擁護する気は全くないが、18歳未満の性行為や性交類似行為を肯定的に描いてはいけないなんて条例改正案は、どう常識的に考えてもやり過ぎだろ。民法731条で、女性は16歳で結婚できてしまうのに、18歳未満の性行為は、肯定されてはいけない行為なのですか?

改正案を読めば、まともな国語力がある日本人なら、その危険性が理解できるはずだ。

PTAさんが、高校生の性行為は、全て根絶すべきと思ってる人々なら、言い分としては理解できるのだけど...まさかね。


現実は、我が国は少年の性犯罪被害がどんどん減ってる社会なのは上記資料の通りだから、アニメや漫画がガス抜きになって、犯罪抑制に寄与しているという漫画家たちの主張の方が、まだ説得力を感じる。

おまけに、昨年児童ポルノ事件が急増したというなら、尚更、それ以前から蔓延している過激なアニメや漫画の影響があると主張するのは、因果関係を無視しすぎだろう。相関関係すら認められない。

更に言うと、日本の少年は、犯罪被害が減少しているだけでなく、少年が犯罪を犯した側となる、刑法犯少年も減少している。

刑法犯少年の推移_s.jpg

凶悪犯の推移_s.jpg

ただし、凶悪犯の減少っぷりは凄いけど、実は知能犯が増えてる。

知能犯の推移_s.jpg

子供を持つ親御さん方は、こういう現実を把握してますか?

更に、触法少年にも触れておこう。触法少年とは、刑法41条で処罰対象から除外される、14歳未満の刑事未成年で、刑罰法令に触れる行為をした子供のことだ。

触法少年の推移_s.jpg

これも、別に問題ないとしか読めない。
すると、やはり少年犯罪の減少が大きいことを重視すべきだ。今の子供は、高校入学前くらいから、ちゃんと分別をわきまえる率が向上しているということだろう。

未成年人口の減少率を計算に入れて比較もしてみたが、有意に少年犯罪率が減少している。(もっとも、人口が減少すれば犯罪数が減少するのが当然という考え自体、物事を単純化し過ぎだが。)

一部の知能犯の増加を考慮しても、犯罪に走る未成年が減少傾向にあることは、正当に評価されるべき事実だろう。


し・か・し、PTAさんが、本当に注目すべき問題が、以下の表にある。

特別法犯少年の送致人員_s.jpg

触法少年の行為別補導人員_s.jpg

理由不明だが、軽犯罪法違反の事件だけ、激増している。
人口が減少したって、増える犯罪は増える。

軽犯罪法とは、PTAの皆さんが、漫画やアニメで心配しているような性表現の問題とは、全く別次元の問題だ。

軽犯罪法(Wikipedia)

ところが警察庁は、こういうことにはロクに説明してくれない。
だから、マスコミも取り上げない。
そういう問題こそ、PTAさんが問題視すべきなんじゃないですかね。


さて、以上なんですが...

PTAさんは、もう少し健全な発想で、少年の犯罪被害がどんどん減ってい我が国が、他国と違う点を考えてみるべきじゃないか?

具体的に、表現規制の厳しい国の犯罪率と、表現が比較的自由な我が国の犯罪率を比較してみるとか。

マスコミに騙されずに、頭冷やして客観的に考察しないと、子供を危険にさらそうとしているのは、条例改正に加担しているPTAさんだった...なんて結果になりかねないですよ。

こう説明すると、犯罪被害減少の現状を、規制強化の成果だと勘違いする人もいるみたいですが、そういう人には、児童ポルノ事件が平成20~21年で倍に増えたことになってる数字についての認識を、是非聞いてみたいところ。なんせ、改正案に賛成な人は、事件が「増えた」ことを前提にしているので。

信じるかは別にしても、こういう話もありますから。
「児童ポルノ規制による性犯罪の増加」
http://www42.tok2.com/home/seekseek/53.html

また、少年の人口減少を犯罪減少の原因だと信じてる人には、加害者人口と被害者人口を混同して考えていないのか、聞いてみたい。少年人口の減少は、少年が加害者になる事件の減少を説明する一因にはできるが、少年が被害者となる事件の減少を説明するには、無理がある。成人の加害者が、高齢化で引退でもしたのですかね?

まあ、実はある年に生まれた、異常に加害者率の高い大人の年代があるのは事実で、そういうのも比較すると、もっと面白い考察は可能かもしれませんが(苦笑)

他に、自らを正当化できる理由をご存知でしたら、是非教えてくださいな、PTAさん!


追記
なんとまー、事実誤認で暴走してるのはPTAだけじゃなくて、東京都青少年・治安対策本部すら、警察庁の発表と真逆の、虚偽の事実を前提に、無用の条例改正を急いでるとは驚いた。流石にこんな簡単な事実関係を誤って条例作るって、常識的に考えられないんじゃないだろうか。呆れたの通り越して、本当に怖くなってきたのですが...
http://dfujikawa.cocolog-nifty.com/jugyo/2010/03/317-5bb0.html

おまけに、東京都小学校PTA協議会も、保護者の声を代表してないそうだ。いよいよおかしな話になってきた。
http://ttchopper.blog.ocn.ne.jp/leviathan/2010/03/post_86fe.html

あと、冒頭に「先送り」と書いたけど、現状では明日(3/19)決まってしまう可能性が、まだまだ高いそうだ。
都議会総務委員会傍聴してるMIAU事務局長さんのつぶやきを見るに、条例改正案をどうこうしようってレベルじゃなくて、日本全体をどうにかしようとしてる都議会総務委員会の雰囲気が伝わってきて、ドン引き。
http://twitter.com/himagine_no9/status/10659303702

もの凄い多くの反対意見が表明されてるのに、聞く耳持たずに、客観的な事実誤認(もしくは恣意的な曲解)に基づいて、こんな稚拙な条例改正案を通したい人って、どんな人たちなんだろう?

日本で戦後の民主主義教育受けているなら、手続きを尊重することこそが、民主主義の正当性を担保する唯一の方法だと、知ってて然るべきだろうに。

こんないい加減な不正義が、まかり通ってしまいそうだなんて、何か夢を見ているようだ。


追記2
5月10日に、このエントリーのファイルが壊れてテキストの最後の方が消失してしまっていたことに気づいたのですが、バックアップが見当たらず、思い出して少し書き直していました。

そうしましたところ、ご親切にコメント欄にて、壊れる前のテキストをご提供してくださる方がおり、5月21日に無事、元の内容に修復できました。

あーる様、お陰さまで無事修復でき、大変助かりました。
誠にありがとうございますm(_ _)m

最近、いくつかの場所で、映像制作やコンテンツ産業の在り方みたいな議論を目にしたので、自分も思うところを述べておきたいと思う。まとまりもなく、とりとめもない話をつらつらと...


■パチ仕事と映画、アニメ仕事
日本のアニメ、CG業界の特徴の1つに、パチンコ・パチスロ産業への依存というのがある。これは、旧作品の権利を持つ会社が、パチメーカーにその利用許諾を与えるという意味での受け身な話ではなく、パチンコ・パチスロ化する際に発生する映像制作案件を受注するという形での、純粋な映像制作仕事としての能動的・発展的関係の話だ。パチスロ台の液晶画面で流れる映像も、CG制作会社の立派な仕事なのだ。パチメーカーは、CG制作会社に、とてもまともな対価を支払う、お得意さんである。

対して、公知の事実として、日本のアニメの現場の貧しさについては、今更説明を要しないだろう。これは、実写系でも映像制作現場一般の話として、ある程度共通する部分もあるかもしれない。CG制作会社は、アニメだろうと実写だろうとゲームだろうとCMだろうと、コンピュータで作る映像なら、何でも受注できる会社が少なくない。しかし、アニメや映画仕事を受注する場合、元請けでもなけりゃ、まともにやって黒字にするのはかなり困難。その手の仕事の発注元は、映像制作にまともな金を払う気がないことが少なくないが、同時に、赤字で受注する制作会社も後を絶たない。需要と供給が、制作コスト割れしたポイントでバランスが保たれている。

この差が生じる理由は簡単だ。かつて、多くのCGデザイナーやプログラマは、パチ仕事をヨゴレだと思って避けていたが、映画仕事に参加するのはステータスなんで、若い頃はタダでも働きたい仕事だった。著名な劇場作品でも、学生上がりの未経験者を、インターンシップと称してただ働きさせているケースは後を絶たない。映画仕事を受注した会社は、学生の夢を食い物にしてでも活用しないと、赤字が拡大してしまう。

ある程度の規模の制作会社になると、有名な劇場作品に参加するのは、求人のために必須となる。同時に、劇場作品への参加を夢見て入社してきた社員たちの、モチベーションを維持する必要もある。だから、会社の宣伝、イメージアップのため、劇場作品を一定数受注し続ける。

すると、優秀な人材を確保するための赤字映画仕事と、会社経営を維持するための黒字パチ仕事とのバランスが、とても重要となる。黒字にしたいなら、パチ仕事ばかりやれば良いと思うかもれいないが、イメージの悪い会社に人材は集まらないので、両立させなければならない。特にデザイナーは、転職が頻繁で、フリーランスになってしまう人も多いので、一定規模で能力の高いデザイナーを雇用し続けるには、会社が魅力的でなければならない。更にパチ仕事は、ノウハウも必要で、守秘義務の厳しさもあり、映画仕事のように安易に学生を使うこともできない。

これが10年前なら、映画の赤字を埋めるのはゲーム仕事だった。アニメ業界からゲーム業界への人材流出も、当時のトレンドだった。しかし、ゲーム機の性能が向上し、リアルタイムの描画能力が高まった結果、ゲーム向けの映像制作仕事が激減した。憧れの仕事と収益の上がる仕事が合致していた時代は、ゲーム機の性能向上によって終わり、ゲーム仕事に代わって黒字仕事の柱となったのが、ヨゴレのパチ仕事だったわけだ。(念のため言っておくが、自分自身は、パチ仕事をヨゴレとは思ってない。十分に、素晴らしいと思ってるが、その理由は後で。)

みんなが憧れる映画仕事は、ヨゴレのパチ仕事によって、一部支えられてきた。
そしてやっと、パチ仕事のイメージが改善してきたのは、ごく最近の話だ。


■ダメな仕事
と・こ・ろ・が、パチ産業は、いわゆるコンテンツ産業の市場規模が計算される場面などでは、何故か除外されている。政府の発表する資料などでも、パチ業界は存在しない前提で、コンテンツ産業が語られる。20兆円産業のパチを無視して、それより遥かに小さな残余の業界をまとめて、コンテンツ市場の在り方が議論されている。そんな議論の価値が低いのは、言うまでもないだろう。

しかし、映画業界の権利者な方々は、自分たちのコンテンツが、実はパチのおこぼれで作られてる部分があることを知らないかもしれない。そんな人々にいくらヒアリングして資料が作られても、現実を全く反映しないのは当然だ。(対してパチ業界は、映画やゲームで培われた映像制作のノウハウの恩恵にあずかっている。)

各業界の権利者団体は、別個独立で、他業界を知らないかもしれない。しかし、映像制作現場のレイヤーで実際に様々な業界からの映像仕事を受注している各CG制作会社は、実は共通なので、複数の別個独立の業界のリスクが、映像制作現場のレイヤーで担保されてるのだ。逆に言うと、担保できてしまっているから、いつになってもダメな業界はダメなまま、なのかもしれない。

--追記
パチンコ業界は、警察庁が監督官庁であり、コンテンツ振興を扱う経産省からは手を出せないのかもしれない。
--

ダメな業界の仕事というのは、単に金がないだけではなく、コンテンツ制作過程が非合法だったりもする。映画仕事では、著名な監督が、ごく当たり前に、著作権侵害や制作に必要なソフトウェアの不正コピーを現場に指示する。例えば、各社に散らばった100名程度のスタッフで、監督のイメージする映像を共通認識して完成を目指すには、コンテだけじゃ足りないので、監督のイメージに近い既存の映画作品から、シーンやカット毎にリッピングして、関係スタッフに配られたりする。何十人もに違法DVDコピーで配られることもあれば、主要な制作会社のサーバーにリッピングした作品が蓄積されたり、海外の外注先に配布されたりする。(もちろん昔は、VHSの大量コピーだった。)

スタッフは、必要に応じてPCで参考作品の映像を見て、監督のイメージを共有しようと努力しながら、自分たちの作品を制作する。スタッフの人数分、何十作品ものDVDを買うなんて真面目なことは、誰も考えない。何しろ予算の少ない仕事だ。他人の作品を参考にする事自体は合法でも、参考にする手段が非合法なのに、それに文句を言う映画制作関係者は、ほとんど存在しない。リスペクトしてれば良いと思ってる。

劇中で表示される文字などに至っては、どこかからフォントを違法コピーしてCD-Rに焼いてきて、ポンと渡され、「この文字でよろしく」みたいなこともある。

自分がかつて在籍したCG制作会社では、そういう非合法な制作手法を排除するのが、自分の仕事の一つでもあった。受注仕事では、違法行為を指示してくるのがクライアントであり、これと衝突することは極力避けなければならない。現場にウルサイと思われつつも、自分たちの仕事を合法とするため、いつも苦労した。

CG業界とアニメ業界の垣根が崩れ、旧態依然としたアニメ制作会社と共同作業するようになると、本当に最悪な場面に出くわした。アニメの会社は、ソフトウェアを買うものだと考えていないところが大半だ。金の無い業界の常識とは、そういうものだ。それでも、一緒に仕事をする以上、不正ソフトを使わないでくれと、相手の会社の責任者と話をしたりもした。「そんなことしてると、メーカーの監査が入りますよ」と脅しても、「そんなのは追い返すから大丈夫だ」と、まるで気にするのが馬鹿みたいに言われる業界だった。

不正を排除しようという意識を持たない会社が大半だが、そうして違法に作られた自分らの作品の権利だけは、絶対に守られるべきだと信じて疑わない、不思議な業界。それが、映画やアニメの業界だ。極論ではなく、一般論として、日本のアニメ等で、その制作過程全体において完全に合法性が担保されている作品は、皆無と言って良いだろう。中には、「うちの会社に不法行為はない!」と言いたい会社もあるだろうが、下請けや、人件費が安価だからと仕事を投げる、アジア各国の外注先の制作会社が何をしているかは、見て見ぬふりだ。フリーランスのデザイナーに発注する場合も、その個人が、自宅でどんなソフトをしっかりと買い揃えているか、クラックされた不正ソフトを使用していないかなど、発注側は誰も気にしない。結局、安く受注する会社や個人を便利に使うことで、不法行為を押し付けている。


■パチの良さ
対してパチは、完全に合法的な仕事を求められる。発注元が、何度も納品物をチェックする。高い金を出すだけでなく、合法的なコンテンツの制作にこだわる会社が多い。例えば、CGではテクスチャー画像をいくつも使用するが、パチ仕事では、作中で使用した全テクスチャーの著作権チェックがされる。テクスチャー一覧を提出すると、先方の法務部がチェックしたりする。テクスチャー画像は、ロイヤリティフリーの素材集などを買って利用することが多いが、素材集の発売元の会社が無くなっていると、テクスチャー差し替えの指示を出されたり...

そんなことは、かつてのゲーム仕事でも、要求されなかった。


フォントも、遊技機で合法的に使用できる、業務用フォントの契約を求められる。一度、先方がフォントの種類決定を後回しにして、仮のフォントで納品することを現場レベルで合意し、後に先方が差し替える話になっていたのに、先方の法務部に伝わっておらず、「不正なフォントで納品し、損害を与えた」と、損害賠償に発展しそうな時もあった。本当に、合法的なコンテンツにこだわる業界だ。(様々な著作権関係の裁判経験から、パチ業界は学んでいるのかもしれない。)

そういう仕事をしつつ、一方で、自堕落な映画やアニメの関係者に接すると、合法的なパチの仕事を受注できる会社というのが、とても誇らしいと感じるようになったのを覚えている。

しかしながら、パチに代替する黒字仕事が登場する前に、もしもパチ仕事が激減すると、経営が傾くCG制作会社も少なくないだろう。パチ業界は、最近持ち直したような話も聞くが、ちょっと前は市場規模が縮小傾向で、先行きに不安があった。そこで待ち望まれてきたのが、カジノ解禁だ。


■需要創出としてのカジノへの期待
カジノに期待するというと、どうやら、カジノのゲームマシンの仕事に期待をしているのではないかと、大きな誤解をしている人がいる。それは、あまりにもカジノを知らなすぎる。

もちろん、既存のパチメーカーは、海外のギャンブルマシンの供給も行っているので、既存のパチメーカーとの関係の延長で、カジノ向けのマシンの仕事も、期待が大きい部分ではある。CG制作会社から、パチメーカーへ転職し、海外カジノ向けの機種に関わってるなんて人もいる。

しかし、十数年前、自分がまだデジハリの学生だった頃から、SIGGRAPHとラスベガス旅行はセットだった。カジノとは、エンターテインメントの総合産業であり、当時からデジハリの杉山校長は、本場を見ろと学生に教えていた。

ラスベガスは、いたるところにコンテンツが溢れ、輝いていた。遊園地でもないのに、スタートレックのライドものや、ショー、シアターがホテル毎に存在し、どこもかしこも映像仕事の宝の山に見えた。街中の巨大スクリーンが、無数の映像を消費していた。

カジノを解禁するとは、単にギャンブルを解禁することではなく、ギャンブルを中心とした一大エンターテインメント都市を構築し、街中のいたるところにコンテンツ需要が生まれるということだ。合法化の暁には、これらの仕事を、国内の会社が受注できる制度を担保することは、必須だろう。その際、受注した仕事を海外に下請けに出すようなことを一定数制限すると、更に良いかもしれない。

これを、ゲーム、アニメ、映画などと、コンテンツの下流の権利者レイヤーの縦割りでしか業界を評価していないと、上流の制作現場レイヤーの重複に気がつかないので、カジノの魅力が理解できない。

CG制作会社に、「あなたの会社は、アニメ業界ですか?映画業界ですか?ゲーム業界ですか?それともCM業界?」と質問するのが、どれだけ愚問か分かるだろう。1つの会社で、実写合成だって、アニメだって、博物館の展示映像だって、何でもやってたりするのだ(もちろん、それぞれの専業の会社もあるが、そういうところは業界と運命を共にするしかない。)。だから、カジノ解禁で需要が創出されると、パチ依存の現状の偏りを緩和する方向に作用するだろう。それが、間接的に映画やアニメを支えることにつながる。


■制作サイドの改善
もちろん、個々の業界がそれぞれ健全化を目指すのは大事だ。しかし、日本のアニメ系の会社は、プログラマはゲーム会社にいるものだと、勘違いしてる感じがある。アニメの制作会社で、プログラマを重視して雇用している会社は、ほとんど無いのではないか。それが、Pixarに永遠に追いつけない原因だ。道具は、自分たちで作るものだという認識が、文科系アニメ制作会社には抜け落ちてる。なんせ、ソフトウェアは不正入手するのが当たり前だと思ってるのは前記の通りなんで、それを作るのに人件費をかけるという発想がないのかもしれない。プログラマが雇えないのか、雇う気がないのかは別にしても、そういう会社が淘汰されるのは、ある程度仕方のない話だ。

不正を行わずに、プログラマも雇わず、道具をひたすら真面目に買う側にいる会社もあるだろう。プラグイン一つ自給せず、必要なら買えば良いと。それはそれで、黒字を維持できるなら良いのだけれど、かなり非効率なので、小規模な会社でしか無理ではないかな。

理科系CG制作会社は、まだ、映像制作におけるプログラマーの重要性は、理解している。デジハリ時代のクラスメイトなども、インハウスのツールで海外に対抗しようと、ゲーム会社の出資でCG映画専門の大規模な制作会社を立ち上げた奴もいる。そういう会社が成功するよう、心から声援を送りたい。でも、映画ばっかじゃ飽きないの?とは思う。

専門化せず、つまみ食い的に、多様な業界の映像需要に応えられる会社というのが、時代の変化にも生き残れ、社員も飽きずに在職し続けられる、ノウハウのある楽しい職場なんじゃないかなと、個人的に思っている。

ノウハウがなければ生き残れないし、生き残った会社にしかノウハウは残らない。
焼畑農業みたいな業務スタイルの会社は、どうぞご自由にご退場ください。
...とか言ってみるテスト。


■風が吹けば桶屋が儲かる的なナニカ
このブログは、観光立国に関わるものを時々書くけれど、それは、観光立国にはカジノが必須だと考えており、カジノが認められればコンテンツ産業が潤うと考えているからだ。そして、JALを批判するのは、観光立国をインフラ面で妨げているのがJALだからだ。

航空行政が健全化し、LCC+地方空港による安価な観光インフラが整備され、普天間基地跡地だろうと、夕張だろうと、お台場だろうと、カジノが解禁され、観光立国となることが、日本のコンテンツ産業の活性化と合法化(カジノにまつわる仕事は、非合法であってはならないので、不正を厭わない旧態依然とした制作会社は受注できない仕組みも必要)につながる可能性というのに、大いに期待してる。


そして自分は、そういう時代に法律分野で貢献できたらという思いで、職を辞して法科大学院にいる。今回の日弁連の会長選にはガッカリしたし、今年はどうあがいても合格できそうにないけど、新司法試験は三振するまでチャレンジする所存。ギャンブル人生ですわ(涙)


■蛇足1
みんなの党の柿沢議員は、都議時代にお台場カジノ構想に深く関わり、カジノ推進に積極的だし、ショートショートフィルムフェスティバルにも関わってて、映像産業に興味も持ってる。かつ、みんなの党は観光立国も重視している。こういう話に興味持ってくれないだろうか?

■蛇足2
経産省が、コンテンツ振興策についての意見募集をしているので、またちょっと違う話を書いてみた。
「レンダリングサービス等におけるテンポラリライセンス」
http://201002.after-ideabox.net/ja/idea/00786/

■蛇足3
「ハリウッドVFXの仕事を日本で受注するための支援」で、このエントリを紹介。
http://201002.after-ideabox.net/ja/idea/00131/
関連して、こちらにも紹介されてます。
http://shikatanaku.blogspot.com/2010/02/vfx_9898.html

みんな、なんとかしたいんだよね。

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